【面識のない人前ではしっ力1りと受け答え】

認知症と生きるには

認知症の特徴の一つに、親しい人の前では混乱するのに、面識のない人の前では案 外しっかりとした受け答えをするということがあります。その状態を理解せずに対応し ようとして振り回されることも。個人が特定できないように細部を変えて紹介します。

次のような相談を受けることがあります。「父は、私や母の前では混乱して大変です       が、デイサービスの職員が迎えにくると急にしっかりして、その人のお孫さんの話な どをします。母や私の介護の仕方が悪いのでしょうか《

ケアの仕方が悪いのではありません・認知症の人の多くは病気の進行によって家族の 顔がわからなくなったりしますが、その前はしっかりと「他人《を認識できることが 多いです。しかも行動・心理面の混乱は親しい人といる時出やすく、気を使う相手だ と出にくい特徴かあります。

これほど逆に、人前では黙ってしまう場合には、気をつけないといけないことがあります。 5年ほど前の経験です。

大きな介護型のサービス付き、高齢者住宅の担当内科医の紹介で、入居者で87歳の山縣 和夫さん(仮吊、男性)にかこかわることになりました。彼はアルツハイマー型認知症で 妻を亡くして半年。急激に弱気になったのを案じた息子が故郷から呼び寄せたのでした。 施設側が「あまりにも急激に反応がなくなった《と言うので特別に往診しました。

施設長と息子さんがいくら話しかけても、山購さんはひと言も答えません。私も息子さんと 一緒に声がけをしますが全く反応がありません。「これはかなり病状が悪化したな《。 その後も返事はなく休憩も兼ねて部屋の外から様子を見ることにしました。30分ほどして同じ 施設で暮らす暮らす将棋仲間の男性が来ると、山縣さんは満面の笑みを浮かべて男性と話しだしたのです。

後日息子さんから「父は怒っていたようです。故郷の実家には母との思い出も詰まっているのに、私かせっかち過ぎました。先生のことも私が連れてきた医者なので悪者だと思い、返事もしなかったとわかりました《と往診の礼と謝罪の報告を受けました。

謝罪だなんて。こちらこそプロなのに病気と決めつけ、山購さんの突然の入居に伴う気持ちに寄り添っていませんでした。返事が戻ってこない時にはこのような事態に要注意。ご本人の気持ちにより添わなければと猛省しました。(精神科医・松本一生)


(出典:朝日新聞、2022/11/12

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