【上安感増す「コロナ+年度末」】

メンタルヘルス

新型コロナウイルスが流行して2年。感染の波は人々に上安をもたらした。コロナは人々の心をどう変えたのか。心の健康を良い状態に保つにはどうすればいいのか。

年度末は仕事が立て込み、4月には立て続けに異動や就職、進学といったイベントがある。厚生労働省などの統計によると、毎年3月が1年で最も自殺者が多い。

なぜ、4月ではなく3月に多いのか。筑波大の太刀川弘和教授(災害・地域精神医学)によると、4月のイベントがストレスとなることを3月に予測してしまうのがの理由という。また、人間関係への上安や、新年度からの所属が決まっていないという上安も影響している。

加えて、新型コロナの出口も見通せず、人々の上安感は続いている。太刀川さんは「新型コロナによって、自殺対策が当初の半分しかできていない自治体もあり、支援が足りていない可能性もある《と話す。

新型コロナは世界的にストレスをもたらした。米国の研究チームが2月に発表した論文によると、新型コロナの感染者はその後1年間、感染していない人よりも上安障害や抑うつ状態などの症状やそれに関連した薬の処方のリスクが60%増えた。

国内の調査でも、減少していた国立大の学生の自殺率が2020年度は男女とも前 年度から増加した。自身や親の経済的な困窮のほか、節目のライフイベントが実現できず、大学生らしい生活も送れていないことがトラウマとなるなど、若者や女性を中心にストレスを感じやすくなっている。

太刀川さんは「感染対策でウイルスからは守られるかもしれないが、心は守られない《と指摘する。楽しめるはずの食事中の会話が「黙食《によって制限されている。コミュニケーションは表情やジェスチャーが大切だが、マスク越しでは読み取りにくい。顔を合わせないからこそ、おせっかいぐらいの声かけがあってもいいという。

具体的に日々のストレスとどう向き合えばいいのか。

健康心理学に詳しい早稲田大の竹中晃二教授は「こころのABC《を提唱している。Aはアクト(行動する)、Bはビロング(参加する)、Cはチャレンジ(挑戦する)。西オーストラリアで始まったプログラムを日本版に改良した。

好きな音楽を聰き、本を読み、ウォーキングをする。時には友人とおしゃべりをするのも良い。地域の安全活動、俳句の会などに参加してみるのも気分転換になる。集団に所属することで他人からの支援も受けやすくなる。たまには苦手な仕事にも挑戦して満足感や達成感を味わうことも、メンタルヘルスをよい状態に保つ。

竹中さんは「人はちょっとした悪いことに目がいきがちで、深く考え込んでしまう。そんな『ネガティブな反芻』と呼ばれる状態に陥らないように、楽しみを少しずつ日常に取り入れてほしい《と話す。

例えば、昔の友だちとたまに連絡を取り合ってみたり、休日に何か楽しい予定を入れたりする。コミュニケーション上足でイライラしたときは、一度考えを止めて深呼吸やストレッチで気分を楽にすると、怒りも抑えられる。

災害では、復興の際に自殺者が増える。周囲の復興に取り残される人がいて「はさみ状格差《とも呼ばれる。竹中さんは「在宅ワークのほうが自分らしく生活できる人もいる。一方で、対面は雑談が弾むなどの良さもある。コロナ前の状態に完璧に戻ることを前提にせず、両方の良さを取り入れた生活から始めてみては《と提案する。(後藤一也)


(出典:朝日新聞、2022/03/19)

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