【「綱渡り」で養うバランス感覚】

スラックライン

日本勢のメダルに沸いた北京冬季五輪。スキージャンプ競技などの練習風景でよく紹介されたのが、綱渡りのようなスポーツ「スラックライン《だ。年代を問わず、気軽にバランス感覚や体幹を鍛えられるとして注目されている。

スラックラインは幅5㌢の平たいベルトのようなラインの上を綱渡りのように歩いたり、張力をいかして跳ねだりしてバランスを楽しむスポーツだ。

綱渡りは遊びとして大昔から行われてきたが、近年では、1960年代に米ヨセミ テ国立公園に集まったクライマーたちが、登山用ザイルを張って遊んでいたという。日本スラックライン連盟の小倉一男理事長によると、スポーツメーカーにより2000年代に、扱いやすいラインの幅や、難しい技術なしでラインを安全に張るための金具などが開発され、手軽なスポーツとして世界中に広まった。日本には2009年ごろに上陸。屋外で木やポールなどに設置するのが一般的だが、平均台のようにラインを張ることができるラックと呼ばれる器具もあり、室内でも楽しめる。

東京都内の体育館で開かれた体験教室に記者も参加してみた。主催するのは練馬区や西東京市で活動するNPO「スポーツアシスタント《。理事長の吉田政樹さん(33)が講師役になってくれた。

まずは基本動作。滑らないように裸足になって、高さ30㌢に張られたラインをまたいで、片足を乗せて立つ。「両腕を頭の上に上げて、バランスを取って《と指示を受けるが、左右どちらかに重心が傾くとすぐに落ちてしまう。吉田さんは「これを両足交互にできるようになると、歩けるようになります《。バランスがとれないまま歩き出すと、滑って落ちる可能性が高い。

ようやく10秒ほど立てるようになった。次はラインの上でしゃがむこと。失敗しながらも、しゃがんで立ち上がってを繰り返すと、数秒バランスを取ることができた。

「こういう達成感からハマりだすんです《「せっかくだから、やってみませんか《と連れて行かれたのは高さ1・1㍍に張られたライン。両脇を支えられて、おそるおそる歩くと、立っているだけで揺れが増幅する。支えが外れるとすぐに落ちてしまった。体幹を意識して、揺れを吸収することがコツのようだ。

30分ほどだが、太ももは適度に張り、体はぽかぽかと汗ばんだ。

元プロの梶田雅功さん(33)に、達人の技を見せてもらった。高さ160㌢のラインにひょいとおしりを乗せると、そのままトランポリンのようにジャンプを続け、宙返りや、足をつかむ「グラブ《という技を披露してくれた。「跳んでいるときの浮遊感とラインの5㌢幅に落ちる精密さ《が魅力だという。

連盟の小倉さんによると国内の愛好者は5万~6万人、世界では300万人になるという。技の難易度や高さ、安定性などを競う全国大会も開かれており、昨年10月に開かれた第11回日本オープンスラックライン選手権では一般女子の優勝者は中学1年生、一般男子も高校1年生だった。世代を超えて楽しめることも特徴だ。

スポーツとしてだけでなく、ほかのスポーツを極めるための基礎トレーニングとしても注目が集まる。スキーのほか、ゴルフや野球、テニス、剣道など、多くの競技者がバランス感覚や体幹、集中力を鍛えるために導入しているという。小学校や児童館への導入も進んでいる。小倉さんは「効果もあり、面白くて一石二鳥だ《と話す。(香取啓介)


(出典:朝日新聞、2022/03/12)

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