【香り 色 うまみ…味わう風情】

煎茶の入れ方

寒い日に外出先から家に戻り、温かいお茶を飲むとホツとする。むかし読んだ夏目漱石の「草枕《に、こんな一節があった。

「濃く甘く、湯加減に出た、重い露を、舌の先ヘーしずくずつ落して味って見るのは閑人適意の韻事である《

何かと気ぜわしい師走。せめてお茶を飲むときぐらいは、風情を味わいたい。

表千家教授で、日本茶インストラクターの三木雄貴秀さんに、おいしい煎茶の入れ方を習った。

おいしいお茶を飲むには、まずは茶葉選びから。ただ、素人にはわかりにくいので、ふだんは「何となく高級そう《なパッケージに入っており、値段もほどほどのものを適当に選んでいる。

「お茶の昧は、ほぼ値段に比例します《と三木さん。お茶好きな人は、100㌘あたり1500円以上のものを選ぶという。

1500円と聞き、思わず「高くないですか《という言葉が口をついてしまった。

「でもお茶一杯に使う茶葉は2㌘。一杯あたりに換算すれば、30円です《。そう言われてみれば、紊得できる。

できればお茶の専門店で、1本1本の茶葉が松葉のように細く、色が鮮やかなものを選ぶといいという。

湯を入れるとき、ポットややかんから直接、熱湯を急須に入れていませんか? 実は記者はそうしていた。

「煎茶をおいしく入れられるお湯の温度は50~80度です《

うまみが多く含まれる高級茶ほど、低い温度で入れるとおいしくなるという。まず湯飲みに湯を注き、それを急須に注げば、元の温度から20度ぐらい下がるそうだ。

お茶の出をよくしようとして、急須をぐるぐる回すのも厳禁という。揺らすことでうまみ成分だけでなく苦み成分も溶け出し、苦いお茶になってしまうためだ。

お茶の味は、「アミノ酸《「カテキン《「カフェイン《の三つの成分で決まる。

うまみを決めるのはアミノ酸で、全体の半分を「テアニン《というアミノ酸が占める。テアニンを摂取すると、脳がリラックスした状態のときに出る「a波《が多く出る、という研究結果が報告されている。

カテキンはポリフェノールの一種で、お茶に渋みをもたらす。国立がん研究センターを始め、生活習慣病の予防に効果があるのではないかという研究報告が相次ぐ。抗酸化作用や抗菌作用が報告されており、うがいの効果がより出やすいとされる。

お茶に苦みをもたらすのがカフェインだ。カフェインは覚醒作用があることがよく知られているが、テアニンがその作用を抑えるという。「熱い湯で入れるとカフェインが多く出てしまうため、夜寝る前の熱いお茶はやめた方がいいでしょう《

急須にお湯を入れたら、1~2分蒸らす。その後、湯飲みに移すときは、必ず最後の1滴まで入れて欲しいと、三木さんは話す。

「最後の1滴が濃くておいしいのです《

実は最後まで入れるのにはもう一つ理由がある。水分が残ったままだとカテキンやカフェインの成分が出てしまい、2煎目以降がおいしくなくなってしまうからだ。急須の中が蒸れないように、ふたをちょっとずらしておくといいという。

少し高級な茶葉を買い、三木さんの言うとおりにお茶を入れてみて驚いた。ふだん飲んでいるお茶に比べて、山吹色のきれいな色に、さわやかな香り。独特のうまみが舌の上に広がった。

新年は、おいしいお茶で迎えたい。(岡崎明子)
 


(出典:朝日新聞、2021/12/18)

戻る