【日々のストレス「涙活《で流す】

感涙

涙を流したらすっきりした。そう感じたことがある人は多いのでは。涙がストレスを軽くすることは、科学的な裏付けもある。なかでも、感動や共感で流れる「感涙《がいいらしい。

最近は、積極的に涙を流す「涙活《を取り入れている会社や学校もある。9月下旬、上動産・住宅情報サイトを運営する「LIFULL《(ライフル)の社員11人がオンラインでの涙活を体験した。所属部署の個々人の能力を高めてチーム作りを目指す「チームビルディング《の一環だという。

講師を務めたのは、涙活のイベントや講演会をしている吉田英史さん。涙の効用について話した後、映像を数本流した。

現役最後の日をむかえた駅長に、駅員たちがサプライズで感謝の言葉を贈る映像。戦場から戻った米軍の兵士が家族の前に現れる瞬間━━。それぞれは数分ほどの短い映像だが、オンラインの画面越しに目元をぬぐう社員の姿もみられた。

よかった場面を挙げてもらうと、参加者によって様々だった。「泣けるツボは人それぞれ。自分の人生経験が投影されます《と吉田さんが解説した。

参加した遠山佳子さんは、「無理やり泣くというのはわざとらしいと思っていたが、ストレスを無くすための前向きな行動だとわかった《。

涙なら何でもよいわけではない。メンタルヘルスを指導する「セロトニンDojo《代表の有田秀穂・東邦大学吊誉教授(脳生理学)は「感動、共感で流れる涙が大事。脳の働きと関係がある《と言う。

有田さんによると、心の琴線に触れて感動したり共感したりすると、まず大脳の前頭前野が強く興奮する。心から信号が送られ、ストレスホルモンであるコルチゾールの分泌が抑えられる。さらに自律神経から、リラックスしているときや寝ているときの「副交感神経《に切り替える。

こうした一連の仕組みによって、涙が流れる。前頭前野からの信号は脳全体に発せられ、泣き顔になったり、肩を震わせたりして、全身にも働く。有田さんは「それまでのストレスで一杯だった脳の状態が、すっきりとリセットされる《と話す。

日常生活のなかで、どのように涙を流せばいいのか。

2013年から涙活を始め、コロナ禍のいまはオンラインで涙活イベントを開いている離婚式プランナーの寺井広樹さんに、自身の方法を聞いてみた。

たまったストレスを一気にはき出すため、週末の夜に号泣する時間を持つようにしているのだという。泣ける素材は、普段からたくわえておく。寺井さんが泣けるツボは「おばあちゃんモノ《。映画や音楽、小説などで、優しいおばあちゃんが孫を見守っているような内容だ。

部屋は暗めに、携帯電話は鳴らないようにしておく。アロマオイルやお香をたいて、リラックスできる状態を作る。映画を1本見ようとすると2時間ほどかかるが、「泣くために見るので、泣けたらそれ以上は見ない《という。

もっとも、泣く方法は人それぞれだ。毎日でも、もらい泣きできるよう誰かと一緒でもいい。泣けるツボも、親子愛、動物愛、友情、スポーツなど、様々なジャンルが考えられる。

コロナ禍でストレスもたまりがちだ。自宅で過ごすことが多くなった分、映画を見たり、テレビでのスポーツ観戦で感動したりする時間を作って、涙を流すことを習慣にしてみるのもいい。(神田明美)


(出典:朝日新聞、2021/10/16)

戻る