【 達人指南 リラックスの時間】

手を洗う

新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、手洗いの励行が呼びかけられて久しい。まめな手洗いは日常の動作に定着したものの、ともすれば雑なルーチンになりがちではないだろうか。手洗いをリラックスの時間として位置づけ、楽しみながら続けるにはどうしたらいいだろう。

手洗いの効果は言わずもがなだ。データで示されている。例えば東京都健康安全研究センターなどが、ノロウイルスに見立てた「ネコカリシウイルス《を使って効果を検証した研究が2006年の感染症学雑誌 で紹介されている。

手を流水ですすぐだけでも、手洗いをしない場合に比べてウイルス量は100分の1に減った。手指洗浄用のせっけんを使ってすすぐと1子分の1~1万分の1に減った。手をもんで洗う時間で比べると、10秒から30秒に伸ばした場合にはウイルス量は明確に減らなかったが、60秒に伸ばすと約6分の1になった。手をもんで洗う時間を10秒を2回にすると、1回の場合の約100分の1になるという実験結果が得られた。

泡、液体、固形、変わり種では紙……。ちまたには様々な形状のせっけんがあふれている。手洗いが「カラスの行水《よろしく慌ただしい流れ作業にならぬよう、せっけんと長い時間を過ごしてきたその道の「達人《に教えを乞うた。

札幌市で手作りせっけんを中心に製造・販売して15年以上になる「サボンデシエスタ《。季節に合わせた地元産のラベンダーやハチミツ、小豆、ヤギのミルクなどを原料にした手作りせっけんが主力商品だ。コンセプトは「毎日の暮らしに、ココロがホッとするひとときを贈る《。店主の附柴彩子さん(42)は、北海道大学理学部に在学していた頃から、敏感肌の自分に合う固形せっけんを試行錯誤でつくってきた。

たっぷりとせっけんを泡立てて肌にまとわせる洗顔や手洗い。附柴さんにとって、朝は一日を始めるための、帰宅後はリラックスのための自分の時間に切り替わる「スイッチ《のようなものだという。

手洗いや洗顔に向き合う時間をもっと楽しみたい。附柴さんに尋ねると、①体温より少し低い32度ぐらいの湯を使う ②固形せっけんの場合、泡立てネットを使ってたっぶり空気を含ませる ③手と肌の間に泡の層をつくることを意識するIの3点がポイントという。

「流水で落ちない油由来の汚れをせっけんの力で落とします。ゴシゴシして肌を傷つけないようご注意を。気分を変えたいときは、香りや素材に変化を加えてみてください《

助言をヒントに、ネットでゆっくりとなでるようにせっけんに触れていくと、きめ細かい泡がこんもりとできた。手のひらを泡で包んで感触や香りを楽しんで、ぬるま湯でそっと流すだけで、肌はさっぱり。一つひとつの所作をおろそかにしてきたのを反省したくなった。

コロナ禍が始まって1年以上になる。「手洗い、手指消毒の回数が増え、お客さまからは手荒れの悩みもいただきます《。附柴さんは手洗い後のケアの大切さも強調する。乾燥しやすい冬だけでなく、通年でクリームやオイルを使うとよいそうだ。

「手のひらだけでなく、指回りや指と指の間、手の甲や手首も丁寧に洗った後、乾かすまでが重要《。東北大学の吉田真紀子助教(感染症疫学)は話す。「ぬれたままの手には、菌やウイルスが付着しやすいことが知られており、水気はしっかり取ってほしい《(熊井洋美)



(出典:朝日新聞、2021/05/15)

戻る