【新型ゴロユナのワクチン接種は】

筋肉注射と皮下注射

4月から高齢者向けに始まる新型コロナウイルスのワクチン接種は「筋肉注射」に なりそうだ。これまで予防接種といえばインフルエンザでもおなじみの「皮下注 射」が主流だった。どう違うのだろう。

皮膚の下には皮下組織があり、さらに奥に筋肉がある。筋肉の層に薬剤を注入する のが筋肉注射(筋肉内接種)。針を垂直に刺し、奥まで届かせるのがポイントだ。 一方、皮下注射は脂肪などを含む皮下組織に注入する。皮膚をつまみあげ、傾けて針を 刺す。

2種類あるのは、免疫の付き方や腫れなどの反応が違うためだ。感染症コンサルタ ントの岸田直樹・北海道科学大客員教授によると、皮下組織に比べて筋肉は血流が多 く、免疫反応につながるリンパ組織に薬剤が届きやすい。一方で筋肉内には神経組織 もあり、一定のリスクを伴う。

このため欧米では、はしか(麻疹)や風疹など、病原体を使い、免疫がつきやすい ワクチンは皮下注射し、病原性を失わせた不活化ワクチンなどは筋肉注射が選ばれ る。ワクチンの効果を高める成分「アジュバント」が加わる場合も、痛みや腫れが出 にくい筋肉注射にする。

ただ、ジフテリアや破傷風など海外では筋肉注射されるワクチンでも、日本では皮 下注射が選択されてきた。日本ワクチン学会理事長の岡田賢司・福岡看護大教授によ ると、日本では1970年代、小児への解熱薬や抗菌薬の筋肉注射で運動障害などが 出る例が3千人以上報告された。これを背景に筋肉注射が避けられてきたという。

ただ岡田医師らが詳しく調べた結果、運動障害の事例にワクチンの筋肉注射は含ま れておらず、日本小児科学会は2015年、子どもへのワクチンの筋肉注射に問題 はないとの見解をまとめた。

新型コロナワクチンも、承認済みの米ファイザー製のほか、英アストラゼネカ、米 モデルナと、日本政府が供給契約を結んでいる3社分はいずれも筋肉注射となる。

接種の準備が進むが、九州のある自治体の担当者は「筋肉注射の経験が少ない看護 師も多く、現場から不安の声が上かっている」と明かす。予防接種の啓発を続けてき た日本プライマリーケア連合学会の中山久仁子ワクチンチームリーダーは「医師でも 筋肉注射をきちんと学ぶ機会は多くない。正しく接種してもらわなければと危機感を 抱きました」。

学会は医療従事者向けに筋肉注射の方法を解説する動画を公開。「肩の先から指幅 3本分下、または脇のつけ根の高さ」などの接種位置や、「接種後はもまない」など の注意点を紹介すると、「施設での教育に使いたい」との希望が相次いだ。

感じる痛みはどうか。福岡看護大の岡田医師は「筋肉注射だから痛いのではなく個 人差が大きいのでは。薬液の成分によって刺激も随分違う」と話す。ファイザー製ワ クチンの添付文書によると、治験ではプラセボ(偽薬)に比べて痛みを訴えた人が数 倍多かった。「痛いと感じる人が多いワクチンなのかもしれない」 (岡田医師)

実際にコロナワクチンの接種を受けた北海道科学大の岸田医師は「筋肉注射は痛い と思われがちだが、接種時はインフルエンザの予防接種より痛くなかった。薬液の量 が少ないからではないか」と話す。

近年は痛みを抑えられるパッチやクリーム式の局所麻酔が、予防接種の場でも使わ れ始めているという。岡田医師は「痛みに対する恐怖心も、痛みの感じ方に関わって くる。不安な人は医師に事前に相談してほしい」と話している。(竹野内崇宏)



(出典:朝日新聞、2021/03/20)

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