【部下の信頼を得る「傾聴」】

lT(情報技術)機器販売会社のA社は、業績や社員数も伸びている。だが、うつ病での休職者も増え、ハラスメント問題も増加しているという。意識調査では70%の社員が「言いたいことが言えない風土」と回答している。人事部長のBさんから管理職向けにコミュニケーション対策となる研修を企画できないかとの相談があった。

社員が「言いたいことが言えない」と感じる職場では、管理職たちが部下の話を聞かない社風が根づいていることが多い。米ゼネラル・エレクトリック(GE)の元会長兼CEO(最高経営責任者)、ジャック・ウェルチ氏をコーチングしたことで著名なマーシャル・ゴールドスミス氏が作成した管理職の「20の悪癖」リストは興味深い。その中にも、「人の話を聞かない」「何かひと言価値を付け加えようとする」「『いや』『しかし』『でも』で話を始める」「否定、もしくは『うまくいくわけないよ。その理由はね』と言う」など、上司の聞き方での悪癖が多く含まれている。

「開く」ではなく「聴く」
管理職向けのコミュニケーション対策には、部下の叱り方や褒め方、部下へのコーチングスキルを身につける研修などが有効だ。しかし、A社のケースでは、部下の話を傾聴するスキルとマインドを身につける研修を先に実施するようにアドバイスした。

傾聴法の研修の冒頭では、講師からよく「『部下の話をきく』と頭の中で書いてみてください」との問いかけがある。ここで多くの受講者は「聞く」と書くという。しかし、この「聞く」の字を観察すると、門の中に耳が縮こまって置かれている。耳は頭の横から外に飛び出しているのが本来の姿であり、門でブロックしてはまずい。

部下の話は「聴く」の字を思い浮かべるのが望ましい。この「聴く」の字は耳が立ち、右側には目と心もプラスされている。部下の話を真剣に聴けば、体が前に傾く。これが「傾聴」の姿勢となる。

最近の上司は「忙しいから」と、パソコンやスマートフォンを見ながら目も合わせず、相槌も打たずに話を聞くことがあるようだ。部下は無視され、尊重されていないと思い込む。これではモチベーションは上がらないし、この状態が当たり前になればハラスメントにもなる。

傾聴研修では、管理職は3人1組になり、話し手と聞き手、2人のやり取りを後で講評するジャッジ役で構成する。そして、それぞれの役を交代しながら、傾聴を2時間ほど練習する。話題は最近の職場で気になることや自分の悩みなど、特に制限は設けない。

研修を実施してみると、最初は「忙しい時に迷惑だ」と不満げだった管理職たちも、次第に傾聴の大変さ、重要性を理解する。さらに自分自身も、傾聴してもらう心地よさを実感する。研修の最後の方では本気モードにもなり、終了の合図に気づかないグループも出てくるほどだ。

コミュニケーションが希薄化する職場では、このような管理職の傾聴トレーニングが有効な対策となるだろう。

[出典:日経ビジネス、2013/11/11号、渡部 卓=ライフバランスマネジメント研究所代表]

戻る