【管理職に有効なコーチング】

飲食店チェーンを経営するA社長から、役員候補のB部長に社外コーチをつけたいと相談された。B部長は事業拡大の功労者だが、業績を重視するあまり、長時間勤務や部下の心身の健康、育児・介護休暇などに理解を示さないそうだ。激しやすく、人の話も傾聴できないという。コーチングでそうした態度やコミュニケーションを改善できないかとのことだった。

コーチングは、リーダーシップ開発を主に行うものだが、最近はハラスメントに当たる言動の改善、心身の健康維持、ストレス耐性の向上などにも、領域が多様化している。欧米では経営幹部へのそうしたコーチングが盛んに行われているが、日本ではA社長のようにコーチングを検討する経営者はまだ少数派だ。

怒りっぽい、部下の話をまともに聴かない一方で、業績では結果を出すような管理職や経営幹部には、どのようなコーチングが有効だろうか。

シミュレーション会話を繰り返す
B部長はまじめで緊張しやすい性格だった。部下と対面する時にも、緊張から怒ったような話し方になるので、まずはリラックスするために、腹式呼吸の習慣をつけるよう指導した。具体的には、吸う息より吐く息を2倍以上に長くしていく呼吸法を、4拍子のゆったりした音楽のリズムに合わせて行う。この呼吸のペースを意識して話したり、相づちを打ちながら話を聴いたりするだけでも、 ̄印象は随分と改善する。声のトーンも落とすようにするといい。

B部長には相手の目をにらみつける癖もあったので、ネクタイやあごのあたりに目線を置くよう注意した。また、背広を脱ぐ、シャツの袖をめくるなど、威圧感を与えないような雰囲気を出す ことも勧めた。さらに、部下と話す前には、洗面所などの鏡の前で、自分の表情や雰囲気を確認し、和らげる。これは欧米の一流幹部の多くが実行していることでもある。

部下との会話を想定したシミュレーションも、コーチングでの定番メニューである。会話の主語は必ず「私」にする。例えば、「あなたはずぼらだ。だから今回のミスにつながったのだ」などと相手を主語にするのではなく、「再確認が行われず、私は悔しくてならない」というように、自然に私を主語にして話せるまで練習する。

シミュレーション会話で、B部長は「絶対」「いつも」などの断定的な単語が多かった。一方で、部下を褒める時には「たまたま」「珍しい」などの皮肉な言い回しをしていた。こうした会話 での語調や表現にも気を配りたい。また、部下が重要なフレーズを口にしたら、オウム返しのように同じ単語を使って話すと、「自分の話を聴いてくれているな」という信頼につながる。

5回ほどのコーチングではあったが、その後は部下からの評価が改善したようで、「Bさんの表情が明るくなった」と、A社長から報告があった。このような事例が増えてくると、日本でも欧米並みに管理職向けのコーチングが広がる期待もできそうだ。

[出典:日経ビジネス、2013/10/14号、渡部 卓=ライフバランスマネジメント研究所代表]

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