【新指針による腰痛治療】

Fさん(46歳)はデスクワークが多く、運動不足気味。自宅の模様替えのために家具を持ち上げた時、庶に激しい痛みが走って立ち上がれなくなった。

厚生労働省が実施した調査によれば、腰痛の有訴者率(人口1000人に対する体調不良の自覚症状がある人の割合)は、男性で1位、女性では2位と高くなっている。

そのような背景の下、日本整形外科学会・日本腰痛学会の監修による『腰痛診療ガイドライン2012』がまとめられた。エビデンス(科学的根拠)の高い国内外の論文を分析し、質の高い新しい情報を基にした標準的診療の指針である。13人の専門医が3年がかりで作業に当たった。私もその1人である。

以下に「ガイドライン」に基づいた腰痛診療について説明する。

腰痛を訴える人は多いが、レッドフラッグ(危険な兆候)には注意を払う必要がある。例えば、下肢にあ痺れや筋力低下を伴う、強い腰痛が持続する、またはガンの既往や体重減少、発熱を伴う場合などでは、腰椎における神経障害、腫瘍・感染・骨折、時には内臓疾患の可能性があるからである。

心理的な要因も影響
もちろん多くの場合は、緊急処置の必要がない非特異的腰痛である。長時間の前傾姿勢や重い物を持ち上げた際に起こる腰痛などもこれに含まれる。原因が全く思い浮かばないことも少なくない。

また、心理的な要因の影響も注目されている。家庭環境や職場の人間関係などが原因で抑うつ的な状態にあると、腰痛が慢性化・再発をしやすいことが分かってきた。

ただし、素人判断は禁物だ。思わぬ病気が隠れていることもあるので、腰に痛みがある時は、整形外科専門医を受診してはしい。

腰痛を訴える患者が受診すると、医師は問診、身体所見などから症状を多面的に評価する。そして、レッドフラッグに抵触せず、非特異的腰痛と考えられる場合には、症状に応じた対症療法を行う。

痛みが強い急性期には痛み止めも処方する。さらに、腰椎コルセットで腰を保護し、安静を心がけてもらう。ただ、横になっているばかりではなく、無理のない範囲で日常生活を送るようにした方がいい。また、過大な不安は抱かないようにしたい。

こうした対症療法を行うことによって、ほとんどの場合は10日から2週間ほどで徐々に痛みが緩和されてくる。腰椎コルセットも必要なくなる。腰に負担がかかるような重労働や過度な運動などはしばらく控えた方がいいが、仕事をするのは問題ないだろう。

腰痛の慢性化・再発の予防には、ストレッチや筋肉トレーニングなどの運動が有効である。

一方、対症療法を6週間行っても症状が軽減されない場合には、MRI(磁気共鳴画像装置)などの検査が必要なこともあるので、専門医を受診することが勧められる。
(談話まとめ:繋宮 聡=医療ジャーナリスト)

[出典:日経ビジネス、2013/09/09号、宮本 雅史=日本医科大学多摩永山病院(東京都多摩市)整形外科部長]

[イラスト:市原すぐる]

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