【アスリートから学ぷ】

ロンドンオリンピックが終わってから季節も変わったが、トップレベルのアスリートたちが、あの極限の緊張状態からしっかりとパフォーマンスを発揮できるメンタリティーには驚嘆するばかりだ。特に4年に1度しか舞台が用意されていないオリンピックは、アスリートたちにとっても究極の緊張の場面であるに違いない。

最前線にいるアスリートたちは、既存の概念とは違う視点を持っている。ハンマー投げの室伏広 治さんは「赤ちゃんトレーニング」なる理論を基にトレーニングを重ねているという。筋力がほとんどゼロに近い赤ちゃんが、倒れずにハイハイをするバランス感覚に着目した理論だ。持ち合わせた能力を最大限に発揮する理にかなった赤ちゃんの動作を研究し、トレーニングに取り入れている。筋骨隆々のアスリートが、筋力のない赤ちゃんに着目する点が面白い。

メジャーリーグのイチローさんも興味深い思考を感じさせる。野球では打ちそこなった球が詰まり、運良くヒットになることがある。イチローさんは時に意図的に詰まらせるそうだ。当然ながらジャストミートする技術がないとできない技である。また、柔道家の野村忠宏さんは自分の中に潜む動物的な感性を非常に重んじるそうだ。種々のスポーツの最新トレーニングは綿密な科学的分析に基づいて思案されている。しかし、野村さんは対戦相手をビデオで研究したり、得意技や戦い方の情報をなまじ入れたりしない。先入観が動物的感性を鈍らせるのを防いでいるというのだ。

「型」ができてこその「型破り」
最前線にいるアスリートだからこそ視点に独自性があるが、日々のルーティンワークを非常に重視している点も共通していると言えよう。

先頃亡くなった歌舞伎役者の中村勘三郎さんが以前、テレビでこんなことを語っていた。「稽古でしっかり基本の『型』ができた者が、個性を出すために破るのが『型破り』」。「型破り」と言うと良くも悪くも普通じゃないというイメージがわく言葉だが、どの世界も基本の「型」は、 その後の発展の土台となるのだろう。

自分の能力を限られたステージで発揮する−そんな場面は私たちの通常の社会生活の中でも時に遭遇する。大きな商談、幹部を前にしての重要なプレゼン、などのシーンだ。アスリートたちが必ずしも経験の多くない舞台で、経験以上の結果を出せるのは、こうした不安と緊張の対処が非常に優れているからだろう。表に精神医学的な不安への対処の型を示すので、参考にしていただきたい。型から読者の皆さんが、それぞれ独自の方法へ発展していただければ幸甚である。

[出典:日経ビジネス、2012/12/17号、高野 知樹=神田東クリニック院長]

戻る