【肺炎球菌による肺炎】

咳と高熱が続き、倦怠感が取れなかったJさん(59歳)。胸が痛み、呼吸が苦しくなってきたので受診したところ、「肺炎が重症化しているので、即入院を」と告げられた。

ペニシリンをはじめとする抗生物質が開発されていなかった時代は、死亡原因の多くが、肺炎などの感染症であった。多種の抗生物質の出現により、感染症は撲滅されるかと思われ、肺炎もいったんは死亡率が減少した。しかし、1980年代から再び上昇し、昨年度は日本人の死因の第3位となった。ほかの病気の治療が功を奏していることもあるが、高齢者人口の増加も大きな背景要因となっている。

肺炎で命を落とす人の約95%以上が65歳以上の高齢者だが、実は働き盛りのビジネスパーソンにとっても、肺炎は侮れない病気である。肺炎のほとんどは、風邪症状(急性上気道炎)から始まって下気道の炎症(肺炎)に至るものであり、上流の氾濫が下流で大災害となる構図と似ている。「風邪が長引いているだけ」と、甘く考えて放置しているうちに短期間で症状が悪化、入院が必要となることもある。

風邪の原因の多くはウイルス感染だが、それで気管支が傷ついた後に起きるのが細菌感染である。中でも一番多いのが肺炎球菌で、全体の約3割を占める。主な症状は、咳、たん、発熱などのほか、呼吸が苦しくなり胸が痛むこともある。抗生物質が多用されるようになり、肺炎球菌の中には、治療薬に対しての耐性ができ、薬が効かない菌も多い。それが、高齢患者では治りにくい肺炎となっているのだ。

高齢者の医療費が財政を圧迫していた北海道旧瀬棚町(現せたな町)では、予防医療に取り組み、2001年、国内初となる高齢者への肺炎球菌ワクチンの公費助成を行った。同町の総合的な健康政策は功を奏し、医療費の大幅な削減が実現。この結果は、多くの自治体が、高齢者への肺炎球菌ワクチンの公費助成を進めるきっかけとなった。

慢性疾患があれば接種を
ワクチン接種が推奨されるのは高齢者だけではない。心臓疾患や糖尿病、COPD(慢性閉塞性肺疾患)など持病のある人は、肺炎にかかるリスクや、かかった時に重症化するリスクが高い。米国では喫煙者にワクチン接種を推奨している。喫煙者は風邪を引きやすく、引くと重症化しやすいためだ。

毎年接種が必要なインフルエンザワクチンとは違い、基本的に1回の接種で5年間効果が持続する。費用は医療機関によって違うが、7000円から1万円程度。ただし、すべての肺炎球菌に対して免疫ができるわけではない。90種ほどある肺炎球菌のうち、発症頻度の高い23種の菌が対象だ。また、肺炎球菌以外の要因で肺炎にかかる場合もあるので、接種すれば必ず肺炎にかからないというわけでもない。

しかし、誰しも年を重ねるに従い、肺炎のリスクが高まる。普段、健康に無頓着なビジネスパーソンこそ、転ばぬ先の杖として、肺炎球菌ワクチンの接種が勧められる。
(談話まとめ:仲尾 匡代=医療ジャーナリスト)

[出典:日経ビジネス、2012/11/26、木田 厚瑞=日本医科大学呼吸ケアクリニック(東京都千代田区)所長]

[イラスト:市原すぐる]

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