【下肢に走る鋭い痛み】

デスクワークのGさん(33歳)は、歩くたび、下半身に鋭い痛みを感じるようになった。会社近くの整骨院でマッサージを受けても、痛みは全く消えてくれない。

背部から大腿部後面にかけての鋭い痛みを「坐骨神経痛」と呼ぶが、これは病名ではなく、症状のことを言う。

坐骨神経は通常、下肢の筋肉を動かしたり、知覚情報を脳に伝えたりする役割を担っている。仙椎と腰椎から伸びていて、骨盤の中を通り、太ももや膝の裏側まで伸びる、体の中で最も長い神経だ。これに何らかのトラブルが生じて、腰から足のつま先にかけて痛みやしびれなどの症状が出るのが、坐骨神経痛である。腰椎と腰椎の間でクッションの役割を果たす椎間板の変性が起こったり、腰の靭帯が厚くなったりすると、背中に通る脊髄神経の通り道が狭くなり、神経が圧迫されて痛みやしびれが発症する。

体重が1kg増加すると、椎間板にかかる負荷が約4kg増加するという報告がある。肥満の人は特に注意が必要だ。立っている時に比べ、座っている体勢は椎間板に1.5倍の付加がかかるため、デスクワークの人も気をつけたい。そのほか、重い荷物を持つなど、下半身に負担をかける仕事をしている人は椎間板や靭帯へ悪影響を及ぼしやすい。学生時代に運動部に所属して足腰を酷使していた場合、中年になって坐骨神経に痛みを感じる人もいる。

坐骨神経痛でよく見られるトラブルは、数十mの歩行だけで下肢痛が強くなるなどの歩行障害。代表的な疾患は、腰椎の椎間板が後方に突出して神経を圧迫する腰椎椎間板ヘルニアや、背骨にある神経の通り道である脊柱管が細くなる腰部脊柱管狭窄症などだ。

下肢の痛みやしびれなどを感じたら、整形外科専門病院で受診してほしい。病院では、問診、レントゲン検査、痛みが起こっている範囲の反射などを見る神経学的診察で判断する。その後、坐骨神経痛の症状に応じて、段階的に治療を施す。非ステロイド系消炎鎮痛剤や痺痛治療剤などを内服しながら、ダイエットや禁煙を並行して指導する。効果が見られなければ、神経ブロック注射療法や手術療法へと移行するのが一般的だ。

整骨院や鍼灸院へ行く前に
ビジネスパーソンで坐骨神経痛になるケースは、半年程度で体重が5〜6kg増加した人、デスクワークの人のほか、出張で長時間座っての移動後などに多い。いわゆる生活習慣病でもあるので、 生活習慣を見直すことが大事だ。 仕事が忙しいと、痛みがあっても我慢してしまう人も少なくない。また、整骨院や鍼灸院などに何年も通い、痛みがどうしようもなくなって、やっと整形外科の門を叩く人も珍しくない。しかし、早期に適切な治療をしないと、腰や太もも、ふくらはぎの筋肉が痩せてきたり、足首が上げられなくなったり、尿が出にくくなったりするなどの神経麻痺になることもある。あくまで整形外科専門医による診断と治療を優先してほしい。
(談話まとめ:内藤 綾子=医療ジャーナリスト)

[出典:日経ビジネス、2012/11/05号、古賀 昭義=市谷八幡グノニック(東京都新宿区)院長]

[イラスト:市原すぐる]

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