【ギャンブルヘの逃避は危険】

ストレス社会と言われる現代。「つらいことを忘れたい」などと考え、何かに逃避したくなることは誰にでもあるだろう。例えば、趣味に没頭する。これは、気持ちがリフレッシュさ れ、本来の社会的機能を再び発揮する原動力にもなる、上手な依存だ。

しかし、依存“症”となれば、社会的機能に支障が生じる。ギャンブル依存症がその1つだ。職場のストレスを解消しようと刺激を求め、賭け事に手を出しているうちに、仕事中も‘“そのこと”が頭から離れない状態に陥る場合がある。不可解な早退や休業が増え、業務上の問題に発展することもある。こうした過程はアルコール依存と酷似しているが、アルコー ルの問題ほどギャンブルの問題は、普及啓発がされていないのが実態であり課題でもある。

行為を断つのが一番の治療
いわゆる「依存症」は大きく3種に分類される。アルコールや麻薬などの「物質依存症」、他人へ依存する「人間関係依存症」、そして、ギャンブルやゲーム、最近ではネットオークションなどに依存する「プロセス依存症」である。ある行為により報酬を必ず得られる時よ りも、不規則に報酬が得られる時の方がその行為への執着が高まる。これを「部分強化」と言い、ギャンブル依存症に陥る仕組みの1つだ。

部分強化に当たる“勝ち体験”を機にギャンブルにはまると、次第につぎ込む金額が増え、金融機関で借金を作る場合もある。家族がもう二度としないと約束させて肩代わりをして も、嘘をついてギャンブルに出かけ、再び借金が膨らむケースも少なくない。

特にギャンブルの恐ろしい点は、会社を辞めたとしても、借金は追いかけてくるということだ。警察庁の自殺の概要資料によれば、自殺者の原因・動機は「健康問題」に次いで「経済・生活問題」となっている。その詳細を見ると「負債」「生活苦」が大半を占めており、ギャンブルの問題への取り組みは、心の健康のみならず自殺予防対策にもつながる。そうした経緯を踏まえ、厚生労働省でも、様々な依存症における医療・福祉の回復プログラムの策定 に関する研究班が組まれている。

依存症となった脳内には「嗜癖(しへき)」の回路が発生する。この回路は現代医学では消滅できず、原因となる行為を断つことが治療上不可欠となる。アルコール問題と同様、本人に「否認」があるため、家族や職場など周囲の協力も必要だ。また、ギャンブル問題を抱え るケースは医療機関で解決するとは限らず、当事者で構成される自助グループ(GA=ギャンブラーアノニマスなど)や家族会への参加が有意義である。

[出典:日経ビジネス、2012/09/10号、高野 知樹=神田東クリニック院長)]

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