【睡眠中の歯ぎしり】

朝起きると、アゴの周辺が疲れていて、口を開けるのがつらいTさん(50歳)。妻に「睡眠中の歯ぎしりがうるさい」と言われたことと関係があるのだろうか。

睡眠中、無意識にギリギリと歯をこすり合わせ、不快な音を出す歯ぎしり。音を出す場合だけでなく、歯をかみしめて食いしばることも含めて「睡眠時ブラキシズム(口腔内意習慣)」と呼ばれている。一般的には、日本人で8〜15%が歯ぎしりをしていると言われ、子供から老人まで年齢層を問わず幅広く見られる。

通常、奥歯にかかる力は最大で自分の体重程度。しかし、睡眠中の歯ぎしりは、“これ以上かむと歯が壊れてしまう”という抑制が利かないため、体重以上の力が加わることがある。

自分で歯ぎしりに気づきにくいことも多いが、起床時に、アゴが疲れている・痛い、アゴの関節が引っかかる歯が削れていることなどは、代表的な症状だ。一緒に寝ている人(睡眠同伴者)に「歯ぎしりしている」と指摘されることも重要なファクターと言える。

「たかが歯ぎしり」と思っている人も多いかもしれない。だが、放置していると、歯が削れて折れたり割れたりすることもまれではない。口が十分に開けられない顎関節症を引き起こしたり、歯周病が悪化したりする原因にもなる。また、歯の治療による差し歯が破損したり、詰め物が脱落したりすることもある。特に近年、審美的な治療として人気が高いセラミックスを用いた歯は、天然歯や金属で治した歯と比べてもろいので、注意が必要だ。インプラントの場合は、かむ力が直接伝わり、ネジが緩む、人工歯が欠損するなどのトラブルが発生し、インプラントそのものを失う原因にもなる。

歯ぎしりの原因ははっきりしていないが、浅い睡眠の時に起こりやすいことが分かっている。ストレスが多かったり、飲酒をしたりすると熟睡しにくいため、歯ぎしりしやすい。そのほか喫煙、遺伝なども原因の1つとして指摘されている。睡眠時無呼吸症候群も眠りが浅くなるため、無呼吸状態の後に、高い頻度で歯ぎしりが起こることが報告されている。

マウスピースで歯の負担を軽減
歯ぎしりは、ストレスを抑え、生活習慣を見直して睡眠が安定すれば、予防できる可能性はある。それでも治らないなら歯科に相談して、樹脂製の歯科用マウスピース「スプリント」を作製し、睡眠時に着装するスプリント療法を試してみるとよい。これにより、大半の患者の歯ぎしりを抑制できる。

長期的にマウスピースを使用すると効果が薄れることがあるが、睡眠中に歯の表面を摩耗から守り、歯にかかる力を分散させ、ダメージを抑えることは可能だ。歯ぎしりの音を小さくすることもできるので、一緒に寝ている人の睡眠を妨げないメリットもある。

スプリント療法は、数カ月に1回のメンテナンスが必要になるが、健康保険が適用され、安全で痛みが少ない治療法だ。
(談話まとめ:内藤 綾子=医療ジャーナリスト)

「出典:日経ビジネス、2012/08/20号、馬場 一美[昭和大学歯学部(東京都大田区)教授]

[イラスト:市原すぐる]

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