【「新型うつ病」の裏側】

「新型(現代型)うつ病」は、マスコミに取り上げられることで知名度が急速に高まった。伝えられる主な特徴としては、最近の若手社員に多い、仕事はしないのに私生活は元気、会社への帰属意識が低く自分勝手、診断書で休職しているのに結構楽しそうに遊んでいる、などが挙げられる。ネガティブなイメージで、“やっかいな人”扱いされている傾向がある。

まず知っておきたいこととして、新型うつ病の正式な医学診断名や定義は存在せず、診断基準もない。専門家の間でさえも見解が一致していない。また、マスコミなどで取り上げられるケースの多くは、基本となるうつ病の診断基準さえも満たしていない。

うつ病は、社会的影響を強く反映する疾患の1つだ。労働者を取り巻く職場環境は激変しており、その変化は今も持続している。グローバルな企業間競争は日常的で、絶え間なく組織編成が行われている。脳機能やうつ病の病理そのものは変わらなくても、表現や表出の特徴が変化することは想像に難くない。現に社会をリードする40代・50代の人たちも、その昔は「最近の若者は…」と言われていたはずである。

ここで、精神科に通院中の男性(30代前半)の話を紹介したい。

「心の不調が生じ、休職して2カ月が経つ。当初の憂うつな気分が1日中続くことや、じっとしていられない不安感は徐々に改善してきた。だが、朝はまだすっきりと起きられず、10時頃に起床している。主治医からは『そろそろ家に閉じこもらず、気分のよい時に外出する習慣も作りましょう』というアドバイスがあった。図書館なども勧められたが、まだ本を読む集中力はなく苦痛である。治療上、趣味を楽しめる能力が回復することも大切だと言われたので、時に街に出て鉄道模型店を見て回る。たまに工作用のパーツも購入する。せっかく街に出たので、そのまま帰らず、カフェなどで少し休んでから帰宅する。ただ、こうして外出した次の日は疲労感が強く、毎日のようには外出できない。購入したパーツを工作して組みつけるなど、以前ならワクワクと楽しめたはずだが、買ったままになったパーツがたまっている」

うつが疑われる要素を見極める
この男性の場合は、従来のうつ病の診断を満たすケースである。しかし、自宅での様子を知らずに、街で偶然、職場の人が彼の行動を見かけたら、いわゆる新型うつ病のイメージに合致してしまう。

気をつけておくべきことは、従来のタイプであれ新型であれ、うつ病の診断がつく状態であれば、本人にとっては大きな苦悩があり、軽視できない。休養と薬物だけでは改善しづらく、本人自身が社会への適応のための生活様式を身につけていくという力も、回復の大きな原動力になると考えられている。今後、新たな治療法も開発されるべきだが、安易に「その人」だけの問題にしないことは忘れてはならない。

[出典:日経ビジネス、2012/07/09号、高野 知樹=神田兼クリニック院長]

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