【飲酒時の記憶障害】

Mさん(53歳)は最近、酒を飲んだ翌日に、前夜の出来事の一部を思い出せないことがある。酒を飲む時、どのような注意が必要だろうか。

酒を飲むと、アルコールは胃と小腸から吸収され、肝臓でアセトアルデヒド、さらに酢酸に分解。その後、水と二酸化炭素になって体外に排出される。だが、アルコールの分解には時間がかかる。当面分解できない分は血液中に流れ出て少しずつ分解されるが、その間、アルコールは体内を巡り、脳を麻痺させる。その結果、摂取した量に応じて、様々な酔いの症状が表れる。

例えば、一般的には、血中のアルコール濃度が0.05%程度ならほろ酔い状態で陽気になる。0.1%程度で酪酎状態に入り、ろれつが回らず千鳥足に。0.2%程度で泥酔状態に陥り、立つこともできなくなる。

記憶障害も、泥酔状態になると見られるようになる。その場での受け答えはできても、記憶として蓄積できず翌日になって、1〜2軒目の飲酒は覚えているが、3軒目のことは思い出せ ない、などというような状態になる。

これは、アルコールによる脳の麻痺が記憶を司る海馬に及ぶためだ。分解能力を超えた過剰なアルコール摂取が、記憶障害の原因になるのである。

飲酒内容を記録し適正量を知る
より深刻な記憶障害もある。部分的な記憶の喪失ではなく、一定時間の記憶を丸ごと失うブラックアウトだ。前述の例で言えば、3軒目の記憶のみならず、1〜2軒目を含め飲酒したこと 自体を忘れてしまうような症状だ。

ブラックアウトを起こす人は、習慣的に大量の飲酒をしており、酒を飲んで頻繁に転倒して頭を打つ、家庭や職場で飲酒に伴うトラブルを起こす、などの問題行動が見られることが多い。

記憶が飛ぶような飲み方は、肝機能に負担を強いるだけでなく、金品の紛失や人間関係のトラブルを起こすといった危険性も伴う。アルコールの分解能力は加齢とともに低下するので、シニア世代は適量の見極めが欠かせない。それには、記憶が飛ばない飲み方を心がけ、飲んだ量を「ビール大瓶1本」のように記録しておくといい。そうすれば、適量がつかめてくるはずだ。

記憶障害や問題行動を起こすのを半ば自覚しながら過剰な飲酒を繰り返すなら、アルコールの乱用や依存症の疑いもある。そういう場合は、自分の状態をチェックすることを勧めたい。世界的に使われているのは「AUDIT(オーデイツト)」というテストで、飲酒問題の危険度が分かる(厚生労働省のホームページ:h ttp://www.e-healthnet. mhlw.go.jp/information/dictionary/alcohol/ya-021.html)。

依存症の治療をしていると、飲酒のメリットよりデメリットに目が向く。毎晩晩酌をしないと落ち着かない、などというのは習慣飲酒で、依存症につながりかねない飲み方だ。酒を飲むのは、特別な会合などの機会飲酒にとどめておくのがいい。それが長く健康に酒を楽しむことにつながると思う。
(談話まとめ:繁宮 聡=医療ジャーナリスト)

[出典:日経ビジネス、2012/07/02号、垣渕 洋一=成増厚生病院東京アルコール医療総合センター(東京都板橋区)センター長]

[イラスト:市原すぐる]

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