【肥満は時に手術も】

暴飲暴食がたたり、高度の肥満になってしまったSさん(38歳)。健康診断では高血圧と糖尿病も指摘された。ひどい肥満は手術で治せるらしいと聞いたのだが。

「たかが肥満」と考えている人も少なくないが、肥満は万病のもとである。糖尿病や高血圧、高脂血症などのメタポリック症候群(内臓脂肪症候群)の悪化要因でもあり、心不全や脳卒中の引き金となる、“命にかかわる病気”だ。

肥満の治療で最も重要なのは、生活習慣の改善である。過食を防ぐ食事制限や、その人に合った運動療法が基本で、多くの場合はそれだけでも効果を得られる。しかし、高度の肥満の人たちについては、効果を得ても継続するのが難しい。そうした人たちへの長期的な有効性が確認されているのは、減量手術だけである。

手術には、胃の上部をバンドで締めるものや、胃と小腸をつなぐバイパス手術、胃の一部を切り取る手術など様々な方法があり、米国では年間23万件以上行われている。さらに、最新 の海外の研究では、糖尿病治療を薬だけで行うよりも、薬物治療と肥満手術を併せて行う方が、糖尿病が改善するという報告もある。

胃をバナナ1本分に
日本で多く行われている減量手術の1つが、「腹腔鏡下スリーブ状胃切除術」だ。胃の8割ほどを切り取り、バナナ1本分程度の大きさにする。手術後は少量の食事で満腹感を得られるの で、自然に食事量が少なくなり、減量効果が上がる。

当院でこの手術の対象となるのは、BMI(体重kg÷身長m÷身長m)35以上の人か、BMI32以上で糖尿病や高脂血症、高血圧などの肥満に起因する疾患を2つ以上持っている人。痩身効果だけを期待する人などは適応外で、誰もが無条件に受けられる手術ではない。当院では2012年5月29日現在、154人がこの手術を受けている。

同手術の特徴は、腹腔鏡を使うため、お腹を大きく切ることなく、小さな穴を5カ所開けるだけでいい点だ。傷の大きさは5〜15mm程度で、開腹手術に比べて入院期間が短くて済む。手術 前日に入院し、術後3日で退院できる。また、バイパス手術とは違って、食べ物が通常通り胃でも消化吸収されるため、手術後の栄養障害が少ない。

これまで同手術を受けた人の平均体重は120kg。一般的には、術後1カ月で10kg、3カ月で20kg、6カ月で30kg、1年で40kg減量ができる。手術後しばらくは吐き気などが表れることもある が、食べ方の工夫で改善する。

減量手術は体重減少と、肥満が原因の病気が良くなるだけでなく、活動的になって仕事がはかどるなど、生活の質が上がるのも特徴だ。

ただし、手術後の生活習慣の改善も不可欠である。そのため、当院では、手術前後のカウンセリングで、生活改善の指導も行っている。費用は保険が利かないため、入院、手術、術後半年までの検診を含めて125万〜200万円程度かかる。
(談話まとめ:武田 京子=医療ジャーナリスト)

[出典:日経ビジネス、笠間 和典=四谷メディカルキューブ(東京都千代田区)減量外科センター長]

[イラスト:市原すぐる]

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