【腰痛の漢方治療】

大学病院で椎間板ヘルニアの手術をしたKさん(54歳)。半年後に腰痛が再発し落胆していたところ、友人から漢方治療を勧められた。

腰痛は、はとんどの人が一生のうちに一度は経験すると言われているが、多くの場合は、無理な運動や仕事などでの疲労が原因だ。3カ月ほどもすれば自然に治るので、そう心配するほどの病気(症状)ではない。

しかし、中には内臓や背骨、筋肉、神経などの病気が原因となっている場合もある。また、心因性やストレスなどから起こることもある。症状が長引く場合は、一度受診しておくといいだろう。

近年、腰痛に漢方が活用されるケースが増えている。漢方は現在、現代医学の治療を行っている医師の9割近くが何らかの形で取り入れていると言われている。整形外科の専門医として豊かな経験を積んだ医師が、漢方薬を併用していることも多い。漢方治療を望 む患者も増えている。患者が漢方治療を望んだ場合、医療機関では一般的に次のような手順を踏む。

まずは腰痛を発症している原因疾患(腰椎椎間板ヘルニア、変形性脊椎症、腰椎すべり症、腰椎分離症など)を、MRI(磁気共鳴画像装置)やCT(コンピューター断層撮影装置)で突き止める。原因疾患が西洋医学的に除外されれば、漢方治療に入る。

体質に合った漢方薬を処方
問診、脈診、腹診、望診(視診)などによって、「陰・陽・虚・実」「気血水」といった東洋医学的な体質を診て投薬する。その際、単に痛みを止めることだけに注目せず、全身状態を総合的に判断して漢方薬を使用していく。

腰痛だけに特化した漢方薬はない。しかし、漢方治療によって腰痛はかなりのケースで改善する。例えば、慢性疲労状態でお血(お=病だれ+於;血液がどろどろで流れが遅い)体質のビジネスパーソンには、駆お血作用のある疎経活血湯が比較的多く処方される。

もともと人が感じる痛みには閾値があり、個人差がある。特に慢性的な痛みの場合、ストレスや不安、抑圧などにより痛みのコントロールが働きにくくなる。「腰痛は脳の勘違いだ」と言われることもあるほど、脳と痛みは関連がある。作家の夏樹静子氏の著書『腰痛放浪記 椅子がこわい』でも、そうした体験が綴られている。

疾患治療だけでは解決しない腰痛があるのはこのためだ。脳の中には痛みが起こった時にドーパミンが分泌され、痛みを緩和する仕組みがあるが、漢方薬はこのドーパミンシステムがうまく働く引き金になると考えられている。漢方薬による全身的治療によって、脳内の痛みの残像を減らしていくとも言える。

ただし、漢方薬は魔法の薬ではない。最近はパソコンによる長時間のデスクワークが増えており、腰への負担が思いのほかかかっている。腰の筋肉の血流を改善するよう、ストレッチや軽い歩行など、腰痛予防も心がけたい。

(談話まとめ:杉元 順子=医療ジャーナリスト)
(出典:日経ビジネス、2012/04/23号、関 直樹=東京女子医科大学東洋医学研究所列クリニック(東京都北区)非常勤講師]

[イラスト:市原すぐる]

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