【年々増える逆流性食道炎】

胸やけの状態に長く悩んできたlさん(48歳)。人間ドックで内視鏡検査を受けたとこ ろ、食道の炎症が見つかり、「逆流性食道炎」と診断された。

「逆流性食道炎」は、胃酸や胃の内容物が食道に逆流することにより、食道の粘膜に炎症が起きた状態を言う。食後に胸やけや口が酸っぱくなる感覚どんさん(呑酸)が起こるのが主な症状だ。

このような症状は、食道と胃の境(噴門)を閉じる下部食道括約筋という筋肉の弁が加齢などにより衰えることや、肥満になったり、猫背のように背中が丸まった姿勢が長く続いたりすることで胃が圧迫された状態になることなどが原因となり、胃酸や胃の内容物の逆流が起こると考えられる。

もともとは、欧米人に多く見られる疾患だったが、ここ最近では日本でも患者数が増えている。特に20年くらい前までは、背骨が丸まった高齢患者が主であったのに対し、20〜30代の若年層での患者数の増加が日立つ。

国内での患者数が増えてきている背景には、食生活の欧米化による肥満者の増加や、高カロリー食の摂取などにより、胃酸が多量に分泌されていることが挙げられる。また、ヘリコバクター・ピロリ(以下、ピロリ菌)感染者が減少していることも、その理由の1つと見られている。

ピロリ菌に感染していると、胃の粘膜が萎縮して、胃酸の分泌が減る。だが、胃潰瘍や十二指腸潰瘍などの治療の1つとして、このピロリ菌が除菌されると、粘膜の萎縮が改善して、胃酸が出やすくなるのである。

若年層には、もともとピロリ菌を持っていないために、常に胃酸過多の状態になっている人が多いと言われており、こういったことも逆流惟食道炎患者の増加に関係していると考えられている。彼らピロリ菌陰性世代が中高年層となる10〜20年後には、今よりも さらに患者数が増えるだろうと予想される。

自覚症状のない患者も多い
逆流性食道炎は、自覚症状がない患者も多く、人間ドックの内視鏡検査で初めて発見されるケースも少なくない。逆に、食道に炎症が見られなくても、つらい症状に悩まされる患者もいて、対応の仕方も様々である。

治療は、主に投薬によって行われる。「H2ブロッカー(ヒスタミン受容体括抗薬)」は、化学物質「ヒスタミン」が受容体と結合するのを防ぐことで胃酸分泌を抑制する薬。さらに、胃酸分泌に関与するプロトンポンプの働きを直接抑え、強力に胃酸分泌を抑制する「PPI(プロトンポンプ阻害薬)」も、高い治療効果を上げている。

もちろん、症状改善には日常の生活習慣や食生活を見直すことも重要である。脂っこい食事を控えて肥満を改善すること、正しい姿勢を保つ努力をすることも、逆流性食道炎の改善には効果がある。投薬は症状が改善したからといって自己判断で中断せず、医師と相談しながら、根気よく治療を続けてもらいたい。
(談話まとめ:新家 美佐子=医療ジャーナリスト)

(出典:日経ビジネス、2012/04/09号、河合 隆=東京医科大学病院(東京都新宿区)内視鏡センター教授・部長]

[イラスト:市原すぐる]

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