【食を楽しめない「摂食障害」】

動物にとって食べることは生命維持の意味合いが強いが、我々人間は食べることを楽しむことができる唯一の動物かもしれない。その「食べることを楽しめなくなる精神的な疾患」と言えるのが「摂食障害」だ。旅行に行っても、親しい人と会食しても、楽しく食べられないのはなかなかつらい。

摂食障害という言葉はもはや一般的になったが、「拒食症」「過食症」と言った方がイメージしやすいだろう。摂食障害は中枢性摂食異常症とも呼ばれ、厚生労働省の特定疾患(難病)にも指定され急増している(グラフ参照)。男性に比べ女性は成長とともに 体形の変化が大きいため、女性に圧倒的に多い疾患だが、現在は男女とも中性化している風潮があり、男性でも起こり得る。

ファッション雑誌を開けば「美しい」とされるモデルや芸能人が並んでいる。テレビでも若い世代が視聴する番組ではダイエット特集がよく組まれる。意識しないでも「美=痩せ」というイメージが刷り込まれやすい環境だ。

特に、成長発達の世代に与える影響は大きい。心に潜んだ体形に関する実のイメージが、何かをきっかけに歪んだイメージに変容する。「ふくよかになる→痩せていない→美しくない」という図式だ。成長を許せない歪んだイメージにより食べることができず、過度の体重減少となるのが拒食症、多量の食物をムチャ食い(コントロールできない感覚を伴う)しては反省し、その後に下剤を大量服用したり、自分で意図的に吐いたりするのが典型的な過食症だ。

日常生活にも影響が
両疾患は全く逆の疾患のようだが、実は大変似通っており、両疾患を行き来するケースも多い。一番の問題は、過食の後に「今のはなかったことにしよう」と嘔吐で終わらせる一連の行動パターンだ。そもそも1回の過食だけでは、そのほとんどは吸収し切れず自 然に排泄され、体重の急増にはつながらない。しかし、過食という失敗が許せなくてリセットを試みる。この行動パターンは、次第に思考パターンにまで影響を与える。

我々は日々いろいろな失敗を繰り返すが、それ以上に失敗を補う力がある。「成功は99%の失敗が土台になる」という故・本田宗一郎氏の名言もある。しかし、この疾患では、失敗を補うのではなく、削除しようとする。現実社会で失敗のない生活はあり得ないが、無理してリセットしようとして、結局できずに情緒不安定に苦しむ。

摂食障害の克服には、薬物療養や心理療法など様々なものが存在するが、失敗というストレスへの対処法が基本となる。失敗から生まれる素晴らしいものの存在にいかに気づけるかが重要だ。この疾患の治療に限らず大切な考え方だろう。少しぽっちゃり系のアイドルの人気が出ると、精神科医としては安堵する。

[出典;日経ビジネス、2012/03/19号、高野 知樹=神田東クリニック院長]

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