【眠気を誘わない花粉症薬】

春にはスギ花粉症に悩まされるRさん(38歳)。いつも市販薬で乗り切っているが、薬を飲むと眠くなるので困っている。よく効く薬は眠くなるのは仕方がないのだろうか。

花粉症の症状を抑える薬は「よく効くほど眠くなる」と考えている人は多いようだが、それは誤解だ。

花粉症では、アレルギーの原因となる花粉が鼻の粘膜に付着すると、体内でヒスタミンという成分が作られ、体 中に放出される。このヒスタミンが鼻粘膜にあるヒスタミン受容体に結合して、くしゃみや鼻水などのアレルギー症状が出る。そのため花粉症には、ヒスタミンの作用を抑える抗ヒスタミン薬が使われる。これは、ヒスタミン受容体をブロックしてヒスタミンが結合できないようにするもので、その結果、不快な症状が抑えられる。

一方、花粉症薬を飲むと眠くなることがあるのは、抗ヒスタミン薬の作用が、脳にも影響を及ぼすからだ。実は、ヒスタミン受容体は、鼻粘膜だけでなく、脳内にも多い。ヒスタミンは脳内では神経伝達物質として働き、集中力や記憶力を高めたり、覚醒を促すという大切な役割を持っている。

抗ヒスタミン薬によって、こうした脳内のヒスタミンの作用が抑えられた状態を「鈍脳」と言う。鈍脳になると、眠気という自覚できる影響が起こるのはもちろんのこと、自分では気づきにくい「インペアードパフォーマンス」という状態になるので注意が必要だ。

インペアードパフォーマンスは、自分では十分に意識しないうちに起こる判断力や作業効率の低下のこと。集中 力の低下などにより、事故やケガなどを起こしやすく、資格試験などで成績がふるわないといった影響も考えられる。特に運転や危険な仕事に就く人や、重要なパソコン作業をする時や受験の時などは気をつけなければならない。

例えば、大学生が試験に落第するリスクを見た研究では、鈍脳を起こす脳に入るタイプの抗ヒスタミン薬を飲ん だ学生は、飲まなかった学生に比べて30%も落第のリスクが高かった。また、同タイプの抗ヒスタミン薬の中に は、1回の服用でウイスキーのシングル3杯を飲んだ時とほぼ同様の鈍脳状態になるものもある。

薬局などで入手可能に
一方、脳内に入らないように作られている抗ヒスタミン薬もある。これは「非鎮静性抗ヒスタミン薬」と言われ るもので、脳内でのヒスタミンの作用は抑えないため、鈍脳を起こすことなく、花粉症症状を抑える。

これまで、非鎮静性抗ヒスタミン薬の大半は、医療機関を受診したうえで処方してもらう薬(医療用医薬品)だ ったが、2011年秋からは薬局で買える一般用医薬品として「アレジオン10(一般名:エビナスチン塩酸塩)」が登場した。先に挙げた鈍脳のリスクが高い人にお勧めだ。ただし、用量は医療用医薬品の半分に抑えられているので、数日服用後に期待した効果が得られない場合は、医療機関で用量の高い薬を処方してもらうといい。
(談話まとめ:武田 京子=医療ジャーナリスト)

[出典:日経ビジネス、2012/02/27号、谷内 一彦=東北大学(仙台市青葉区)医学部・医学系研究科機能薬理学分野教授]

[イラスト:市原 すぐる]

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