【社会集団での「刺し身の法則」】

「刺し身の法則」をご存じだろうか。社会的集団行動を取ることで知られるミツバチやアリにおいて、集団の3割 はせっせと働き、4割は普通に働き、残りの3割はあまり働かないものに分かれるという。その集団からせっせと 働く3割を除いても、あるいは、あまり働かない3割を除いても、残った集団は自然にまた上記の3割、4割、3割に分かれるという。「3、4、3→サシミ→刺し身」の法則、というわけだ。

社会集団という観点で考えると、会社で働く人々にもこの法則が通じる。10人のスタッフがいるとすれば、3人はとても優秀な人、4人は優秀な人、3人は普通の人に分かれる。もしあなたが組織のトップで、この法則の「3、4、3」のそれぞれに該当するスタッフが分かったとしたらどう考えるだろうか。「普通の何人かをほかの部署に移 して、よそから優秀な人を入れれば、いいパフォーマンスを発揮できる部署になるはずだ」と思うかもしれない。

 しかし例えば、異動や退職で「普通の」2人がいなくなり、「優秀な」2人が入ってきたら、優秀な人が増えて素晴らしい組織になるだろうか。答えは否、だ。その新しい組織はいつのまにか「3、4、3」に分かれてしまう。逆に、優秀な人が抜けた場合でも、普通だった人がいつのまにか優秀な人になり、「3、4、3」が維持されるのである。

もちろん「必ずそうなる」わけではなく、人の社会心理学の一面を捉えたものだ。この法則は、ほかにも「営業 で自分に気を向けてくれる人の比率」や「ある物事の好き嫌いの程度の比率」などで例えられることもある。

存在価値は絶対的なものでない
刺し身の法則の意味するところは、組織の中には無駄な人材はいないということだ。ちょっとした環境の変化が きっかけで、普通の人でも優秀な人になれる可能性は十分にある。また、どうしても自分の能力を発揮できないと思う場合は、環境を変えてみることも選択肢の1つだ。熟慮したうえで、今いる組織を離れて別の組織に入るか (異動、転職)、自分から新たに組織を作ることにより(創部、起業)、自分を高い能力の集団に入れるよう努力してみるのもよいだろう。

組織での人の存在価値は、絶対的なものだけで決まるのではなく、目標、構成、時期などに依存する、相対的な ものによって変化するのである。

[出典:日経ビジネス、2012/02/20号、吉村 靖司=神田東クリニック副院長]

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