【口腔内に表れる件の不調】

残業続きでストレスを感じていたSさん(38歳)。最近、歯茎からの出血のほか、体の冷えや眼精疲労などの不調を感じるようになり受診した。

口腔内の不調が体の不調に関連していることが、近年の調査で確認されている。健康な人が実感する口腔内の不 調で圧倒的に多いのが、「歯と歯茎の間に食べ物が挟まりやすい」こと。また、「歯茎から出血する」「歯が黄ばんでいる」などのほか、最近は「口臭が気になる」「口が渇く」「口がねばつく」などの不調を感じる人も増えている。

食べ物が挟まりやすかったり、歯茎から出血したりするのは、口腔細菌の増殖が原因となる歯周病の症状である。口腔内での細菌の増殖は、唾液の分泌が少なくなって口腔環境が悪化することが大きな原因だ。ほかの症状も、多くは同様に生じる不調である。口腔環境とは、歯や歯茎、舌などの組織を取り巻く口腔全体の状態を言うが、これを最も支配するものの1つが唾液である。

唾液には、食物の消化作用、口の中を中性に保つ緩衝作用、虫歯の再石灰化作用などのほかに、口腔内を浄化す る作用や殺菌作用がある。唾液の分泌が減少すると、清浄作用などが低下し、歯や舌の表面に付着した口腔細菌などが口の中で固まって膜(バイオフィルム)を作る。これがねばつきや口臭などの口腔不調の原因となり、酸や毒素が発生すると虫歯や歯周病などの口腔疾患につながる。

ストレスが唾液減少の要因に
では、唾液はなぜ減少するのか。その要因には、加齢や薬の副作用などが挙げられるが、唾液の分泌には自律神 経が関与しているため、ストレスにも影響される。

口腔不調と関連する身体不調として、冷え、むくみ、胃の不調、肩こり、目の疲れ、ドライアイ、不眠、倦怠感、イライラ感などを訴える人が、特に女性に顕著だ(2010年花王研究所調べ)。これらは、ストレスなどが自律神経に影響を与えることにより、唾液や涙腺の分泌が減少したり、血行が悪くなったりする結果起こる症状である。また、ストレス状態や緊張状態が続くと、体にも不自然な力が入って筋肉が緊張状態となり、体の不調となって表れることもある。ストレスには自覚できないものもあるので気をつけたい。

Sさんは仕事の忙しさや睡眠不足でストレスがたまり、口腔環境が悪化し、歯周病を発症したようだ。同時に、疲 労も加わり体の不調につながった。

唾液の分泌を促進するには、生活習慣を見直して、適度な運動に十分な睡眠、趣味や入浴などでストレスを解消 するほか、ゆっくりよく噛んで食事をする、水分をこまめに取るなどを心がけたい。夜間は唾液がばとんど出ないので、就寝前には十分に歯を磨く。口腔環境を清浄に整える商品も市販されているので、活用するのもいいだろう。

食生活を生涯楽しみ、健康な体を長く維持するためにも、口腔ケアには気を配ってもらいたい。
(談話まとめ:杉元 順子:医療ジャーナリスト)

[出典:日経ビジネス、2012/01/30、高柳 篤史=高柳歯科医院(埼玉県幸手市)副院長]

[イラスト:市原 すぐる]

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