【脳梗塞につながる心房細動】

健康診断で心房細動が見つかったAさん(57歳)。放置すれば脳梗塞の発症につながることもあると説明を受け、循環器専門病院を受診した。

心房細動は不整脈の一種で、心房(心臓の上部)が痙撃するように小刻みに震えて、規則正しい収縮ができなくなった状態だ。脈が乱れると、心臓のポンプとしての働きが低下して、動惇、息切れ、息苦しさ、胸の痛みや不快感、めまい、ふらつき、疲労感などの症状が表れることもある。高齢者などでは無症状の場合もあり、有病率は女性よりも男性の方が高い。

心房細動の患者は近年特に増えている。日本では現在80万人余り、2040年には105万人ほどになると予測されている。心房細動は加齢によって起こりやすくなるが、ストレス、睡眠不足といった不規則な生活習慣、飲酒などが原因となることもある。心不全、高血圧、糖尿病、脳梗塞の既往症のある人は、一般の人より発症リスクが高くなるので要注意だ。

心房細動自体は直ちに命を脅かすものではないが、QOL(生活の質)が低下する。そして大きな問題は、心房細動が原因で血流の乱れやうっ滞が起こり、心房に血栓ができやすくなることだ。そうなると、心原性脳塞栓症など、重症の脳梗塞を発症しやすくなる。

心原性脳塞栓症は、読売巨人軍終身名誉監督・長嶋茂雄氏が患った病気だ。アテローム血栓性脳梗塞などほかの脳梗塞に比べて、突然、大きな血管の閉塞が起こるので、意識障害や失語症など重篤な後遺症となる可能性が高い。再発もしやすいなど予後もよくない。

このため、心房細動の治療では、脳梗塞を予防することが最も重要な目的になる。治療にはまず、心房細動の原因となっている病気があれば治療し、生活習慣を改善する。また、心房に血栓ができるのを予防するための薬を服用する。

患者の負握が少ない新薬が登場
抗血液凝固薬による予防では、これまでビタミンK括抗薬「ワーフアリン(一般名ワルファリンカリウム)」が処方されてきた。ワーフアリンは有効性が高い一方で、効果予測が不可能、効 果の発現が遅い、定期的な血液凝固モニタリングや頻繁な用量調節が必要、ほかの薬との相互作用が出る、ビタミンKを含む食べ物(納豆、緑黄色野菜、健康食品の青汁やクロレラなど)の制 限といった、服用上の問題点がいくつかあった。

2011年3月、直接トロンビン阻害薬「プラザキサ(一般名ダビガトラン)」が発売された。このプラザキサは、前述したワーフアリンの問題点のほとんどが改善されている。これにより、心房 細動患者の脳梗塞予防治療は、大きく進歩したと言える。ただし、ワーフアリンは肝臓で代謝されるのに対し、プラザキサは腎臓で代謝されるため、腎機能障害のある患者の場合は、出血性合併症などの注意が必要になる。投薬治療を行う際は、医師とよく相談するといいだろう。
(談話まとめ:杉元 順子=医療ジャーナリスト)

[出典:日経ビジネス、2011/11/17号、山下 武志=心臓血管研究所付属病院(東京都港区)院長]

[イラスト:市原すぐる]

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