【登山に潜む高山病】

富士登山へ出かけたRさん(39歳)。頂上にたどり着く前に、頭痛とめまいに襲われ、休んでも治らない。登山スタッフの助言もあり、無念の途中下山となった。

日本の登山人口は475万人と言われ、そのうち40歳以上が6〜7割を占めている。登山は歩行を中心とした長時間の有酸素運動で、山頂での達成感など心のリフレッシュも期待できることから、中高年に適したスポーツだ。最近は、トレッキング(山歩き)を楽しむ人も増えてきた。そんな中、山岳地帯で注意したいトラブルの1つが高山病である。

高山病とは、2000m以上の高地に急速に到達した時に発症する。標高を上げるにつれて気圧が下がり、摂取できる酸素量は減少する。全身の組織や細胞は、血液から酸素と栄養分を受け取り、エネルギー源としているため、高地の低酸素環境に体がうまく順応できないことがある。それた加え、寒さや乾燥、疲労、体質なども関係して、体に様々な症状が表れる。

健脚に自信がある人はど要注意
主な症状は、頭痛、めまい、息切れ、睡眠障害、食欲不振、吐き気、下痢、むくみなど。このような初期症状は警告サインと捉えたい。それ以上高度を上げずに、しばらく休憩して様子を見ること。症状が改善すれば先に進んで構わないが、そうでなければ、迷わず下山してほしい。高度を300〜500m下げることで、症状の多くは回復する。無理して先に進んでしまうと、肺に水がたまる高地肺水腫や、脳が腫れる高地脳浮腫にまで進行し、命に危険が及ぶこともあるので注意が必要だ。

高山病を予防するには、事前の準備が重要となる。山の特性や環境、ルートなどをよく確認する一方、自分の健康に不安があれば、受診しておくと安心だ。

現地では、息が上がらず、他人と会話できるくらいゆっくり歩くのが鉄則。深い呼吸を心がけ、うつむかず、姿勢正しく歩く方が、換気がうまくいく。登りでは、歩幅を小さめにすると、筋肉 の疲労が少ない。高齢者よりも、健脚に自信がある若い人ほど、最初にハイペースで進んでしまい、途中で高山病になりやすいので気をつけよう。

また、こまめな水分補給を忘れないこと。2リットルの水分は携帯し、30分〜1時間ごとに飲む。登山時の水分補給の目安は次の式で表される。「補給すべき飲水量(ミリリットル)=5×体重 (kg)×行動時間(時間)」。

最近は、パルスオキシメーターを携帯する登山者も増えた。血中の酸素飽和濃度と脈拍数を測れるため、体の状態を客観的に数字で把握できるのでお勧めだ。

高度2000m以上の山と言えば、富士山や北アルプスなどが人気だ。登山のツアーに参加する場合、コストはリスクを回避するためと心得て、料金の安さでは選ばないこと。日本山岳ガイド協会などが認定する、山の経験が豊富なツアーガイドのいる、信頼できるツアー会社に申し込むようにしたい。
(談話まとめ:内藤 綾子=医療ジャーナリスト)

(出典:日経ビジネス、2011/10/03号、神尾 重則=落合列ニック(東京都日の出町)院長・日本山岳協会医科学常任委員]

[イラスト:市原すぐる]

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