【ココロの省エネ対策】

今年の夏は、全国レベルで節電対策が講じられたが、今回は「ココロの省エネ」について取り上げたい。

時は「過去」→「現在」→「未来」と流れている。今、こうしている瞬間も、川の流れのように過去へと流されていく。その中で自分自身は常に現在に立ちつつ、過去の失敗を反省し、同じ失 敗をしないように新たな方策を打ち立て、現在に生かす。また、未来に起こり得る心配な事象に対し、今のうちに方策を考える。こうして私たちは、過去や未来に関することを、現在に活用できる形に変換している(図1)。

ところが「ココロのエネルギー」が減少してしまうと、この変換がうまくできなくなる。変換そのものにもエネルギーが必要だからだ。過去の失敗を後悔し、「あの時、なぜそうしなかったのか」といった考えにいつまでもとどまる。また、未来に起こり得る心配事にビクビクし、ただただ不安にさいなまれる。このように、過去と未来にばかりエネルギーが逃げ、肝心の現在に何もできないまま時間だけが経過するため、ますます気持ちは焦り、エネルギーがさらに減っていく悪循環に陥ってしまう。

「今」に集中してみる
こんな時の対応策に“here and now〜今ここで”という考え方がある。過ぎ去った過去は「不変」、これから先の未来は「不明」。不変や不明にエネルギーを分散することをいったん停止し、最低限必要な「現在」だけに集中しようというものだ(図2)。ココロのエネルギーが減少しているからこそ、無駄遣いを減らす、いわば「ココロの省エネ対策」と言える。こうした考え方に基づく心理療法を、「ゲシュタルト療法」と呼んでいる。

夜道を懐中電灯1本で歩かなければならない時、遠くを照らしても光量が足りず何も見えない。足元周辺を照らせば安全に前に進める程度には明るくなる。ひとまず見える範囲で確実に前に進んでいく。これを繰り返す。

人が操作できるのは現在の今ここでだけだ、と割り切って過ごしているうちに、ただ立ち止まって時間だけが闇雲に過ぎていく悪循環を断ち切れる。そして結果的には、現在の積み重ねが未来につながり、同時に過去も作っていく。ココロの省エネをしているうちに、徐々にエネルギーも充填され、過去や未来に関することを、現在に活用可能な形に変換できるように回復する。

アインシュタインの言葉にこんなものがある。「私は、先のことなど考えたことがない。すぐに来てしまうから」。here and now の思考法は、未来を生み出す根源にもなり得るだろう。

[出典:日経ビジネス、2011/09/26号、高野 知樹=神田東クリニック院長)]

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