【うつ病を客観的に検査】

1年前からうつ病の治療を行っているが、なかなかよくならない0さん(42歳)。友人から、本当にうつ病なのか、光トポグラフイー検査を受けたらどうかと勧められた。

ストレスの多い昨今、うつ病に悩む人は多く、その数は増え続けている。うつ病は自殺の原因になることもあるため、適切な診断と治療が不可欠だ。

しかし、これまでうつ病の診断には、客観的な指標がないことが課題だった。例えば、心筋梗塞などの体の病気の場合には、血液検査や画像診断といった客観的な検査によって診断が行われている。

これに対しうつ病では、患者や家族から聞き取った症状や、患者の言動などから、世界的な診断基準と照らし合わせたうえで、医師の診療経験を加味して診断していた。このため、本当は躁うつ病であるのにうつ病と診断されることも少なからずあった。

こうした状況に風穴を開けるのが、光トポグラフイー検査だ。これは、銀行のATMの手のひらや指の静脈認証などに使われる近赤外線という光を使った検査法。近赤外線は、血液中の酸素を運ぶ成分であるヘモグロビンに吸収される性質があるため、頭部に近赤外線を照射し、反射した光を検出してヘモグロビン濃度を算出し、脳の表面の血流の状態を見る。

病気によつて異なる波形
脳の活動の状態に応じて血流は変化するが、光トポグラフイーでは、それを波形で表すことができる。一方、この波形は、うつ病、躁うつ病、統合失調症など、疾患ごとにパターンがある。このため、検査で得られた波形が診断の助けになるのだ。これまでうつ病と診断されながらも、なかなか治療効果が上がらなかった人や、うつ病か別の病気かの診断が難しいケースなどで効果を発揮する。

検査の方法は、近赤外線を照射、検出する装置がついたキャップを頭にかぶり、与えられた課題を行うだけ。課題は例えば、「あ」から始まる名詞をできるだけ答えるといったもので、検査自体にかかる時間はわずか3分。ただ光を当てるだけなので痛みもない。

光トポグラフイー検査の利点は、客観的な指標が出ることにある。実は、うつ病と診断されても自分の病気を受け入れることができない人もいる。しかし、客観的な検査結果を示すことで、病気を受容できるようになり、その後の治療に積極的に取り組めるようになることもある。また、家族や友人にも、治療が必要な病気であることを理解してもらいやすくなり、治療の環境が改善されるメリットもある。

ただし、光トポグラフイー検査による鑑別の精度は100%ではない。当院の場合、うつ病が7〜8割、躁うつ病が8〜9別の精度のため、現在は従来の診断に加えて、その補助という形で使われている。今後、全国でデータが蓄積されれば、精度はさらに上がると考えられる。2009年からは先進医療になり、当院での検査費用は1万3300円である。
(談話まとめ:武田 京子=医療ジャーナリスト)

[出典:日経ビジネス、2011/09/19号、吉田 寿美子=国立精神・神経医療研究センター(東京都小平市)臨床検査部長]

[イラスト:市原すぐる]

戻る