【変わりつつある「痛み」治療】

原因不明の痛みに長く悩んできたIさん(56歳)。約1年ぶりに病院で診察を受けたところ、医師から新しい鎮痛薬を試してみるよう勧められた。

我々が生活していく中で感じる様々な「痛み」。体温、呼吸、心拍、血圧に続き、第5のバイタルサインとして、近年注目されている。

一口に痛みと言っても種類があり、持続時間や原因によって分類される。持続時間による分類では、痛みが比較的短い時間で消える「急性疼痛」、長く続く「慢性疼痛」に分けられる。

また、原因による分類では、炎症や外傷などによって起こる「侵害受容性疼痛」、神経の損傷によって起こる「神経障害性疼痛」、心理的要因によって起こる「心因性疼痛」に分けられる。

人間は痛みによって、体調の変化や異常に気づいたり、外的刺激から危険を察知したりして、体を守ることができる。痛みは生命活動において重要な役割を果たしているのだ。しかし、必要以上に長く続く痛みや原因不明の痛みは、生命活動に不要なものでもある。

特に、見た目には傷や炎症がなく、神経が傷つくことによって起こる神経障害性疼痛は、発症原因が複雑・多様であり、診断も難しい。また、従来の鎮痛薬の効果がばとんど期待できないため、治療が困難で、患者側に強いられる苦痛も大きかった。

日本では「我慢は美徳」とする文化があることから、痛みが軽んじられたり、見過ごされたりすることも少なくなかった。だが、痛みが慢性化する、不眠やうつ病の原因となるなどして、QOL(生活の質)を低下させることもあり、ただちに命を脅かすような緊急性がなくとも、「治療が必要な痛み」として、ようやく認識されてきた。

痛みは慢性化する前に、適切な治療を行うことが不可欠だ。治療に積極的な海外諸国に比べ、日本の場合、まだその治療の仕組みもきちんと整備されていない部分が多いのが現状である。

新薬による治療効果に期待
実際、神経障害性疼痛の疑いがある人は、整形外科、内科、外科、脳神経外科、神経内科といった診療科を受診することが多く、痛み治療専門の「ペインクリニック」への受診は、わずか4.5%にとどまっている。さらに、普通の鎮痛薬を処方されても効き目がなく、患者の50%以上が思うように症状が改善しないことを理由に、受診を中止している、というデータもある。

このような状況下で、2010年日本で新しく発売されたのが、末梢性神経障害性疼痛治療剤「プレガバリン」である。プレガバリンは、このような“神経の痛み”への有効性が高く、日本の痛み治療の場でも、徐々に活用の幅が広がってきている。これまで、痛みに耐えるしかなかった患者にとっては、非常に明るいニュースである。

今後は、一般においても神経障害性疼痛の診断・治療が適切に行われるようになること、そして神経障害性疼痛における薬物治療ガイドラインが十分に整備されることが望まれる。
(談話まとめ:新家 美佐子=医療ジャーナリスト)

[出典:日経ビジネス、2011/09/05号、小川 節郎=駿河台日本大学病院(東京都千代田区)院長]

[イラスト:市原すぐる]

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