【水の飲み過ぎで水中毒に】

フルマラソンのレース中、水分補給を頻繁にし、無理のないペースで走っていたGさん(43歳)。だが、ゴール直前で意識が遠のいて倒れ、「水中毒」と診断された。

水中毒とは、過剰な水分摂取で生じる、低ナトリウム血症のことを指す。恐らくGさんは、脱水症予防で多量の水分を取ったがために、急性の低ナトリウム血症になったのだろう。

塩の成分のナトリウムは、血液量や細胞機能を制御する重要なイオンだ。低ナトリウム血症になると、体がだるくなり、吐き気や筋肉の痙撃などが生じる。ひどくなると意識を失い、呼吸困難に陥り、命の危険にさらされる。

本来、体液のナトリウム濃度は一定だ。低ナトリウム血症とは、体内の水分量に対するナトリウム値が、正常値よりも低くなることである。低くなるというのは、水中毒のように水の過剰摂取でも起きるが、水を体内にため込む抗利尿ホルモンが過剰に分泌される不適合ADH分泌症候群という病気でも起こる。腎臓が排泄すべき水を再吸収するため、体内の水分量が増えてしまうのだ。心不全、肝不全、腎不全などの疾患や、下痢、嘔吐などが低ナトリウム血症の原因となる場合もある。

体液のナトリウム濃度の急激な変化は、細胞液の浸透圧に影響し、細胞にダメージを与える。そのため、神経や筋肉が支障を来し、様々な症状が表れるのだ。

脱水症との見分けが重要
従来、水中毒は精神疾患の一症状として知られていた。強迫観念にとらわれたり、異常なほど喉の渇きを感じたりするがために、水を多量に摂取し発症する。さらに水中毒は、抗精神病薬の副作用や、利尿作用のある高血圧やガンの薬の副作用としても、発症することがある。

スポーツシーンにおける水中毒は、21世紀になって注目されるようになった。2002年のボストンマラソンで行われた調査では、調査対象ランナーのうち、13%もの人が低ナトリウム血症になっていたという。その多くがレース後に体重が増えていた人、ゴールまで時間がかかった人であったことから、水分補給の機会が多かったことが考えられる。また、抗利尿ホルモンはストレスでも多く分泌される。レースのストレスで、体内の水分量が増えたということも考えられるだろう。

脱水症との見分けがつきにくい水中毒だが、体を観察すれば、ある程度の判断はできる。脱水症であれば、目の回りがカサつき、脇の下が乾燥する。血圧が下がり、爪を押すと白くなったままですぐには元に戻らないなどが見て取れる。水中毒では、これらの症状は見られない。水中毒の場合は、木陰などで体を休ませ、塩をなめさせたり、塩分の濃い溶液を飲ませたりする。症状が重ければ、早急に医療機関を受診してほしい。

暑くなると、脱水症予防で水分を補給するが、飲料の塩分濃度も考え、水だけの過剰摂取による水中毒にも気をつけてもらいたい。
(談話まとめ:仲尾 匡代=医療ジャーナリスト)

[出典:日経ビジネス、2011/07/04号、飯野 靖彦=日本医科大学付属病院(東京都文京区)腎臓内科部長]
[イラスト:市原すぐる]

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