【糖尿病治療の最新事情】

Aさん(48蔵)は糖尿病と診断されて数年。食事・運動療法は心がけているが、高血増や体重が思うように改善しない。最近新しい薬剤が出たと聞き、興味がある。

日本人の40歳以上の3人に1人は糖尿病患者または予備軍で、戦後六十数年間で30倍以上に増加している。豊かな食生活の中での動物性脂肪や糖質の過剰摂取、運動不足などの生活習慣が要因だが、日本人やアジア人には体質的な要素もある。

糖尿病は、膵臓から分泌するインスリンという、血糖値を下げる働きを持つホルモン不足と、インスリンの効きが悪くなる(インスリン抵抗性が高まる)ことによって引き起こされる。それにより、食事で摂取したブドウ糖を十分に筋肉や肝臓に取り込んでエネルギーに変えることができず、ブドウ糖が血液中に溢れ出て血糖値が上がる。

糖尿病には特異的な3大合併症がある。「網膜症」は失明につながり、「腎症」は重症になると人工透析が必要になる。「神経障害」が重症化すると、足の壊疽(えそ)や切断に及ぶこともある。さらに糖尿病から動脈硬化が促進されると、脳卒中や心筋梗塞も発症する。

確定診断には、血糖値とHbA1c(ヘモグロビンにブドウ糖が結合したもの)の両方の値を検討する。空腹時で血糖値が126(境界型は110)以上、ブドウ糖負荷テストで200(同140)以上のどちらか、あるいは両方を調べて可能性を見る。HbA1cは、過去1〜2カ月の指標となるが、これは6.1%以上が糖尿病の診断の目安となる。 日本人の糖尿病患者の90%以上を占める2型糖尿病は、低下しているインスリンの作用を改善することが治療 の要だ。最近、アディポネクチンという、脂肪細胞から分泌してインスリンの働きを助けるホルモンの、筋肉内で活性化する糖・脂質燃焼促進作用が、肥満で低下することが分かり、糖や脂質の代謝異常の原因となっていることも明らかになった。そのため、薬物治療が十分な効果を上げるには、食事や運動による体重管理が求められる。

新薬に高まる期待
薬物治療は近年、著しく進歩している。従来のSU薬(スルフオニル尿素系の血糖降下薬)とインスリンは食欲を克進するため、低血糖と体重増加という欠点があった。しかし、これらの問題を改善したインクレチン関連薬が登場した。これは膵臓のインスリン分泌を3倍ほどに高めたり、血糖値に応じてインスリン分泌を促進したりする作用がある。経口薬には「ジャヌビア」「グラクティブ」(一般名シタグリプチンリン酸塩水和物)、「エクア」(同ビルダグリプチン)、「ネシーナ」(同アログリプチン)、皮下注射薬に「パイエツタ」(同エキセナチド)、「ビクトーザ」(同リラグルチド)などがある。

これらはまだ歴史の浅い薬で、使い方に注意を要するが、今後治療の第1選択肢となり得る。HbA1cや食後高血糖の改善、体重増加の抑制など、2型糖尿病の多様な病態へのより確実な対応も可能となってきている。
(談話まとめ:杉元 順子=医療ジャーナリスト)

(出典:日経ビジネス、2011/06/06号、門脇 孝=東京大学大学院(文京区)医学系研究科 糖尿病・代謝内科教授、日本糖尿病学会理事長]
[イラスト:市原すぐる]

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