【アキレス腱を切らないために】

前日の仕事の疲れを残したまま、友人とテニスを楽しんでいたBさん(39歳)。ポールめがけてダッシュした瞬間、足首に衝撃が走り、動けなくなった。

アキレス腱は、ふくらはぎにある下腿三頭筋とかかとの骨をつなぐ人体最大の腱で、地面を蹴ったり、かかとを引き上げるなど、人が歩くのに重要な働きをしている。これが切れてしまうことを「アキレス腱断裂」と言い、足を踏ん張ったり、つま先立ちができなくなったりしてしまう。主にスポーツ活動で見られ、ジャンプ、ダッシュ、ターンなどアキレス腱に強い負荷がかかった時に起こることが多い。中高年では、スポーツ以外で、階段を踏み外すなどの事故で起こることもある。

断裂の瞬間は、「後ろから蹴られたよう」などと表現され、周囲に切れた音が聞き取れることもある。しかしそれほど強い痛みがなく、歩行ができるため、「アキレス腱が切れている」と気づかない人もいる。

歩行の際にかかとが上がらず、ベタンベタンといった不自然な歩き方になったら、アキレス腱断裂を疑い、整形外科を受診してほしい。アキレス腱の部分に陥凹(くぼみ)ができるので、医師が触診すれば容易に診断がつく。とはいえ、受像状況や症状が似ている「ふ くらはぎの肉離れ」と誤診され、アキレス腱断裂を見逃されることもあるので注意が必要だ。

治療には、ギプス固定による保存療法とアキレス腱を縫合する手術療法がある。保存療法のメリットは手術のような傷跡が残らないことだが、6週間程度は松葉杖が手放せない。手術療法は数日から2週間ほど(施設によって異なる)入院が必要だが、4週間程度で松葉杖が不要になる。

最近では、早期回復を目指した新しい手術法の注目度が高い。アキレス腱は、ロープのように細い腱が束になってできている。従来の手術では、切れたアキレス腱を1本の縫合糸で縫い合わせるだけだが、新しい手術法は、断裂した腱をいくつかの束に分け、それぞれの束を縫合して固定を強化し、より早くつなげることができる。術後5日で、松葉杖なしの歩行が可能だ。スポーツ余暇を楽しむには、機能的回復に優れている手術療法が望ましい。

日頃の運動と柔軟を心がける
アキレス腱を切ってしまうと、かろうじて歩くことは可能だが走れないため、スポーツやレジャーを存分に楽しむことができない。車の運転も、足首を使って瞬時にかける急ブレーキが踏めなくなるため控えることになる。活動範囲が急激に狭くなるだろう。

アキレス腱は、いつもと違う負荷がかかった時に切れやすい。テニス、バドミントン、野球、バスケットボール、バレーボール、スキーなどの最中によく見られるので気をつけたい。仕事で疲れた翌日などはいきなり頑張り過ぎないようにする。事前に十分なストレッチを忘れずに。また、日頃から適度な運動を心がけ、アキレス腱を柔軟にしておくことも必要だ。
(談話まとめ:内藤 綾子=医療ジャーナリスト)

[出典:日経ビジネス、2011/05/23号。、内山 英司=関東労災病院(川崎市中原区)スポーツ整形外科部長]
[イラスト:市原すぐる]

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