【災害時に役立つ医療知識】

高血圧症で治療中のNさん(59歳)。東日本大震災のニュースを見て、いざという時の健康状態や、薬のことが心配になった。何か備えておいた方がいいだろうか。

災害医療の現場では、設備やスタッフ、薬剤などの不足が起こり得る。重篤な患者さんに素早く適切な処置が行われるためにも、普段から各人が、心肺蘇生法、AED(自動体外式除紳動器)の扱い方、けがの応急処置など、救急医療に関する知識を高め、備えることが必要だ。また、持病のある人は、1週間分の薬を防災非常袋に入れ、健康状態、血液型、緊急連絡先、服薬情報などを記載したサバイバルカードを作り、普段から携帯するといいだろう。

今回の震災で多くの高齢者に発症した低体温症や、注意を喚起されているエコノミークラス症候群などは、発症や重症化が予防できる疾患である。

低体温症になると体の様々な機能の働きが悪くなり、寒気や震えが出た後、手足の反応が鈍り、意識レベルが低下し、生命の危機に瀕する。雨風にさらされ、濡れた服のままでいると体温が奪われる。乾いた服がなければ、裸で毛布にくるまる方がよい。急に動かす と冷たい血液が心臓に達し、心臓発作を起こすことも。大きくさすったりせず、脇の下や足のつけ根など、太い血管が通る部位を42度以下で温める。ペットボトルで簡易湯たんぽを作るとよいだろう。人肌で温めるのも有効だ。

温かい飲料を与える際は、コーヒーなど利尿作用のあるカフェイン入りのものは厳禁。脱水症を起こすことがある。また、体を温めようとアルコールを与えるのは逆効果で、血管が拡張し熱が奪われてしまう。いずれにせよ、意識レベルが低下した際は、早急に医療処置が必要となる。

エコノミークラス症候群は、長時間同じ姿勢でいることで足の静脈に血栓ができ、それが肺に運ばれ肺塞栓を起こす。動かないことの多い避難所生活では、その危険度は高まる。また、排尿の回数を減らそうと水分を制限していると、血液中の水分不足で血栓ができやすくなる。水分補給を心がけ、足踏みや足首の曲げ伸ばしなどで予防できることを覚えておいてほしい。

脱水症に経口補水療法を
被災時に最も注意すべき疾患が脱水症だ。暑い時期には特に、多くの人が熱中症に陥り、脱水症を起こす可能性がある。脱水症では体内の水分と電解質が不足し、頭痛や吐き気などの症状ガ出る。重症になると、けいれんを起こしたり失神したりすることもあり、命の危険にさらされる。

治療には、軽症であれば、経口補水液(医療用のイオン飲料)を飲ませる経口補水療法が有効だ。特に点滴器具が不足しがちな災害時には、もっと活用されるべきである。経口補水液は、保健調剤薬局で購入できるので、個人でも用意しておくとよいだろう。

震災は、いつやってくるか分からない。むやみに恐れるのではなく、今できることに積極的に取り組む姿勢が大切ではないだろうか。
(談話まとめ:仲尾 匡代=医療ジャーナリスト)

[出典:日経ビジネス、2011/04/25号、奥寺 敬=富山大学医学部(富山市)救急・災害医学教授]
[イラスト:市原 すぐる]

戻る