【緊張すると出る手の震え】

部下の結婚式で祝辞を頼まれたBさん(54歳)。挨拶の際にマイクを持つ手や声 が震えて困った。その話を周囲にすると、震えのある人は意外に多いことを知った。

緊張や精神的なストレスによって震えの症状が出る状態にも病名がある。「本態性振戦(しんせん)」と呼ばれる神経性のもので、本態性(原因が特定できない)というように、ほかの神経疾患に見られるような明らかな器質的障害などは見られない。生活習慣や環境、遺伝的素因など様々な要素が複雑に絡み合って発症すると言われている。

震えは手や腕のほかに、頭部、下顎、舌などに表れることもある。本態性振戦では、震え以外の症状は見られないのが特徴だ。「宴会で上司に酒を注ぐ時に手が震えてこぼしてしまう」「クライアントとの会食で手が震えてうまく箸が使えない」「シャツの小さなボタンがかけづらい」といったものから、「頭が左右に細かく震えてしまうため、人の目が気になる」といった様々な例がある。

震えの特徴は一定のリズム
発症率は調査によってばらつきはあるが、全般で0.6%程度、40歳以上では6%程度というデータがある。男女別では男性の方がやや多いようだ。発症のメカニズムは、長く緊張状態にいると交感神経が働いて、心身をリラックスさせる副交感神経が十分に機能しなくなり、そのバランスが崩れて震えが起こると考えられている。そのため、リラックスすることが一番の対処法と言える。

しかし、重篤な病気ではないからといって、放置するとQOL(生活の質)に影響してくることもある。震えが気になったら早い時期に、神経内科を受診してほしい。ほかの疾患によって不随意に震えが出ているケースもある。例えば、バセドゥ病(甲状腺機能克進症)、パーキンソン病、アルコール依存症などでは、手や足、指などに細かい振幅の震えがあり、状況によって震え方の速さやリズムは異なってくる。

本態性振戦は、何か動作をしようとする時、一定のリズムで規則的な震えが出る。だいたい1秒間に10回程度の震えだか、若い人は10〜12回、高齢になると7〜8回程度と遅くなる傾向がある。なお、高齢になってから発症する場合は老人性振戦と呼ばれ、家族や親族にも本態性振戦の人がいる場合は家族性本態性振戦と言われる。

本態性振戦は、もともと性格的に緊張しやすい人、ストレスを受けやすい人などがなりやすい。いずれにせよ自律神経の興奮が関与していることが多いので、治療はそれを抑制する薬物治療が主になる。交感神経から出るアドレナリンによって、骨格筋のβ2受容体が刺激されて震えが強くなるのを抑えるβ遮断薬という薬剤が有効だ。

高血圧や不整脈の治療に用いられてきたものだが、使用方法や服用量の調節などは、必ず医師の指示に従うこと。大事な予定のある日に合わせて服用することも可能なので、医師に相談してみるといいだろう。
(談話まとめ:杉元 順子=医療ジャーナリスト)

[出典:日経ビジネス、2011/03/14号、神津 仁=神津内科列ニック(東京都せ田管区)院長]
[イラスト:市原すぐる]

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