【負担少ない人工関節置換術】

50代から膝が痛むようになったSさん(58歳)。最近、変形性膝関節症と診断され、手術を検討しているが、膝が曲がらなくなるのではと心配している。

膝の痛みの程度が軽い場合は、薬物・療法などで症状を和らげることができるが、痛みが継続する場合や膝関節が変形して歩行が困難になってきた場合は、人工膝関節置換術などの手術療法が必要になる。

人工関節を入れると、膝が曲がらなくなったり、歩けなくなったりするのではと心配する患者さんもいるが、それは誤解だ。現在では、関節の状態に応じた様々なバリエーションの人工関節が開発され、皮膚切開をできるだけ小さくすることで、患者さんの負担を軽減する手術法も実施されている。私の施設では40〜90歳の患者さんが人工膝関節置換術を受けており、術後もゴルフや水泳、スキーを楽しんでいる方が少なくない。

人工膝関節置換術は、傷ついた膝関節を、関節の代わりに働くように設計されたインプラント(人工関節)に置き換える手術だ。膝の関節面すべてを置換する全人工膝関節置換術と、膝の関節面の一部を置換する片側単人工膝関節置換術がある。

そうした人工関節置換術の一環として、大腿四頭筋にメスを入れずに温存する術式(MIS−QS)がある。このMIS法では、大腿四頭筋を切らないために、術後も一定のスポーツをすることが可能になる。

普及が期待されるMIS法
人工膝関節置換術そのものは長い歴史があり、人工関節や手術手技も年々改良されている。私たちが2004年から取り組んでいるMIS法では、従来なら15〜20cmほどだった皮膚切開の大きさが、7〜8cmと半分程度で済む。そのほか、手術時間が短い、術後の出血 量や痛みが少なく、早期からリハビリが開始できる、入院期間が短く社会復帰も早いといった利点がある。健康保険も適応される。なお、当センターでは行っていないが、MIS法による人工股関節置換術もある。

高齢化に伴い、変形性膝関節症をはじめとする膝の障害を持つ人が増加しており、国内では400万人が変形性膝関節症を羅患していると推測されている。現在までに4万人以上の患者さんが人工膝関節置換術を受けているが、米国の60万人に比べるといかにも少 なく、多くの患者さんは薬物療法などの保存的治療を行っているのが現状である。

その理由の1つとして考えられるのが、日本人の我慢強さだ。前述の人工膝関節置換術に対する誤解とあいまって、保存療法を望む患者さんが多いと思われる。また、MIS法は専門医の診断の下で、手術への適応があるかを見極める必要があるが、導入している医療機関はまだそれほど多くない。

今後、日本でもMIS法による手術を行う医師が増え、受ける患者さんが増加すれば、手術に対する正しい理解も深まるだろう。
(談話まとめ:田野井 真緒=医学ジャーナリスト)

[出典:日経ビジネス、2011/02/28号、杉本 和隆=苑田舎人工関節センター病院(東京都足立区)センター長]
[イラスト:市原すぐる]

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