【良い眠りで明るい1年を】

生命体にとって、生命維持のために重要なものが2つある。1つは、エネルギー源となる食べること。そしてもう1つが、睡眠だ。食事がエネルギー「補給」であるのに対し、睡眠の役割は心身の「点検・補修」と言える。その作業は主に自律神経系、内分泌系、免疫系の3つの系統によって行われている。

自律神経系は、緊張を高める交感神経優位から緊張を鎮める副交感神経優位へと移行し、体と脳を休息させる。内分泌系では、睡眠中に様々なホルモンが大量に分泌され、体の疲労回復や傷んだ部分の修復を促す。免疫系は、サイトカインなどの免疫関連物質が血中に増加し、ウイルスの増殖を抑制する。風邪の時、栄養を取ってぐっすり眠ることで早く治るのは、こうした一連の機能によるところが大きい。

点検・補修役の睡眠が不十分な生活が続けば、心身が不健康な状態になり、高血圧症、高脂血症など生活習慣病の発症リスクが高まる。また、脳の疲労回復も不完全になるため、メンタルヘルス(心の健康)へも悪影響を与える。不眠の人はそうでない人に比べ、3年 以内にうつ病を発症するリスクが4倍になる、という海外の研究報告もある。

眠れぬ夜の寝酒は厳禁
内閣府の「睡眠キャンペーン」をご存じだろうか?発端は「パパ、ちゃんと寝てる?」のキャッチフレーズで展開された静岡県の自殺予防総合対策の一環である「富士モデル事業」だ。この睡眠キャンペーンでは、分かりやすいキャッチフレーズや、自分自身だけでなく身近な者が気づける点をうたったこと、そして受け皿を整備したことなどが成果を上げている。

うつ病の初診診療科に関する調査によると、9割の人が内科などの身体科医を受診しているという。そのため、このモデル事業では、富士市医師会の協力の下、かかりつけ医や産業医から精神科医に円滑に患者を紹介するシステムを構築。その後、内閣府の施策としても取り入れられた。全国レベルに達しているとは言いがたいが、職場のメンタルヘルス研修などでは重々しく感じられるうつ病などの話題よりも、睡眠衛生といった身近な話題は関心を得られ、教育効果もあるだろう。

よく眠れず、日中の疲労、仕事のミス、眠気の持続など支障が大きければ、専門家への受診が必要だ。間違ってもアルコールを睡眠薬代わりにはしないでほしい。寝つきは良くなることもあるが、深い睡眠を減らし、途中で目が覚めやすくをるだけでなく、肝障害や依存症など別の病気のリスクが加わる。睡眠薬にマイナスイメージを持つ人もいるが、医師の指示で正しく使えば安全だ。薬を使わない方法もあるので、よく相談してほしい。

[出典:日経ビジネス、2011/01/24号、高野 知樹=神田兼クリニック院長]

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