【増加する前立腺ガンの背景】

友人の前立腺ガン手術をきっかけにPSA検査を受けたSさん(51歳)。異常はなかったが、生活習慣に気をつけるよう医師からアドバイスを受けた。

日本における前立腺ガンの罹患数・死亡数は年々増加傾向にある。2020年には罹患数で2000年の3.4倍、約8万人に達すると予測されている。これは肺ガンに次いで男性ガンの第2位となる。死亡数の将来予測も深刻で、2020年には2000年の2.8倍、2万人超と言われており、この時点で米国の数値を超えるとの推測もある。

前立腺ガンの早期発見には「PSA検査」が有効である。PSA(Prostate Specific Antigen=前立腺特異抗原)とは健常男性の前立腺から分泌される物質で、精子の保護膜成分のたんばく質を分解して開放する役目を担う。通常、PSAが血液中に流出することはないのだが、前立腺に何らかの異常があると、浸出して検査に反応する。そのために行う血液検査がPSA検査だ。

実際、PSA検査による前立腺ガンの早期発見・治療の効果は、1980年代後半から取り入れてきた米国で顕著に表れている。90年と比べ2003年には、前立腺ガンの死亡率が31%も減少、罹患率も下がっているのだ。

生活習慣との関連性も指摘
一方、日本ではPSA検査による前立腺ガンの発見率は97%に達しているにもかかわらず、受診率はわずか5〜10%という状況だ。検診を実施している市町村の割合は、2006年時点で71.2%であるのに対し、この受診率の低さは非常に残念である。今後はPSA検査を受 けることの重要性をいかに啓蒙していくかが、前立腺ガンを予防するうえで重要になってくるだろう。

最近の研究では、前立腺ガンの発症と、環境や生活習慣との関連性が指摘されている。前立腺ガン患者の多い国、少ない国とで、その特徴が分かれることが明らかになってきたのだ。

例えば、メキシコやイスラエルのように日照時間の長い国では発症率が低く、北欧やスイスなど日照時間の短い国では発症率が高い。また、乳製品や動物性脂肪を多く取る傾向にある北欧やニュージーランド、米国も発症率が高い。反対に、オリーブオイルや魚油などw-3系のオイルを多く取り、トマトを料理に多用しているイタリアは、発症率が低いという結果もある。

元来、日本は大豆や緑茶を比較的多く取る食習慣があった。実はこれらも前立腺ガン予防に有効な食材だ。だが、近年は摂取量が減り、動物性脂肪や高脂肪食を好む食習慣になったのも、前立腺ガン増加の一因だと考えられる。このほか、運動習慣の有無も発症に関 わりがあると考えられており、食生活管理と運動が、前立腺ガン予防につながるというのが最新の見解だ。

これは生活習慣病予防と同じ理論であり、前立腺ガンも生活習慣病としてとらえるべき時代ではないかと、私は考えている。50代以降の男性はPSA検査受診と生活習慣の管理が、前立腺ガン予防の第一歩と理解してほしい。
(談話まとめ=新家 美佐子=医療ジャーナリスト)

[出典:日経ビジネス、2011/01/17号、堀江 重郎=帝京大学医学部附属病院(東京都板橋区)泌尿器科教授]
[イラスト:市原すぐる]

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