【自然とともに生きる】

1980年代から長野県信濃町の荒れ果てた里山を購入し、生態系豊かな森の再生、保全活動に取り組んでいます。この森を「アフアンの森」と命名しました。石炭採掘によって荒廃した谷から見事に蘇った故郷ウェールズの「アフアン・アルゴード森林公園」にちなんだ名称です。2002年には永遠にこの森を残すために財団法人を設立。森の整備・調査活動のほか、身体的障害や心に傷を負った子供たちが、五感と全身を使って森で遊び過ごすことで心を育む「5センスプロジェクト」なども展開しています。

森は私にとっても、心身の癒やしの場です。コンクリートに囲まれた都会には様々なストレスがありますが、自然の中では無縁です。空気がきれいで騒音もなく、免疫力向上やリラックス効果があると言われるマイナスイオンも多い。日常生活の中でおのずと休も動かします。木や花、鳥や動物たちが、私のことを“森の赤鬼(ニコル氏の愛称)”と受け入れてくれています。

人もつながる「生命の囁」
かつてカナダの北極地域で調査探検をしていた頃、イヌイットのシャーマン(呪術師)からこんなことを言われました。「あなたが自然を知っていても、それは大したことではない。自然があなたを知るようになれば、力になる」と。20年以上の歳月をかけて病んでいた里山の再生活動を続けることで、多くの生き物が「生命の環」で結ばれている、健康的な森へと戻ってきました。その環の中に、私もいると感じられる。人と自然が共生できれば、人はもっと元気に、優しくなれるのではないでしょうか。都会で暮らす人たちも、食事の時に生き物の命や自然の恵みを頂くことに感謝すれば、自然とのつながりを意識できるでしょう。

昨年秋、アフアンの森の一画に「アフアンセンター」が完成しました。建築家・池田武邦氏の設計によるこのセンターは、「土に還る」素材にこだわって建てられました。床や壁などは長野県産のスギの間伐材を中心に国産材を、断熱材には一般的なガラス繊維のグラスウールではなく羊毛を使用。化学物質が含まれている接着材や合板なども一切使っていないため、化学物質にアレルギーがある人でも快適に過ごせます。訪れる人たちからは「木の香りが心地よい」という声が聞かれます。

私は都会へ出かける時、アフアンの森のクロモジやヒノキなどから作られた精油を、お守りに含ませて身に着けています。化学的なにおいであふれる街でストレスがかかることがあっても、ふとした時に自然の香りをかぐことで、森を思い出すことができます。

自然環境を良くしなければ、人も健康にはなりません。人が健康でなければ、経済も良くはならないでしょう。エコロジーもエコノミーも、同じ“エコ”。それは「どう生きるか」につながります。環境と健康、経済は、ともにあるものなのです。
(談話まとめ:田村知子:フリーランスエディター)

[出典:日経ビジネス、2011/01/10号、C.Wニコル=作家、環境保護活動家、財団法人C.W.ニコル・アファンの森財団理事長]
[写真:山中恵介]

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