【正しい歯の磨き方】

朝晩の食事後、歯磨きを欠かさないHさん(43歳)。歯を磨くたびに歯茎から出血するが放置し、歯が痛くなった時だけ近所の歯科医院で応急処置を繰り返している。

現代の日本では、毎日歯を磨くことは当たり前になっていると言えるだろう。それにもかかわらず、成人の80%が歯周病にかかっているのが現状だ。ある統計では、20歳まで28本あった歯が40代から急激に抜け始め、70代になると平均12本にまで減っている。それは、予防ケアがきちんとできていないからだ。

大抵の人は、歯の磨き方が自己流で、子供の頃に学校で教わったやり方を続けていたり、家族の磨き方に倣ってしまっていたりする。また、予防ケアというと、歯科医院での歯石取りやクリーニングと考えがちだ。自分で正しい磨き方を知って習慣づけ、まず歯垢を取り除くことを重視していない。

歯垢1mm3の中には、1億個の細菌がいる。細菌が潜みやすい歯と歯の間などをしっかり磨かなければ、何十億個という細菌が口の中にすみつくことになる。それが虫歯や歯周病、口臭などを引き起こす原因となるのだ。

正しい歯磨きをするためには、道具にも気を配ってほしい。歯ブラシの材質はポリプチレンテレフタレートやナイロン製がよい。ヘッドは小さめ、毛並びは平行で、毛先が丸いものをお薦めする。持ち手はストレートが使いやすい。

磨き方は、歯をどうケアしたいかという目的によっていくつかあるが、歯周病を予防し、自分の歯を残したいとすれば、バス法が適している。歯ブラシを鉛筆の要領で持ち、ブラシの先を歯と歯肉の境目に向けて45度の角度に当て、1本ずつ左右に細かく20回程度振動させてかき出す。手鏡を持ってブラシの動きを確認しながら行い、さらに歯間ブラシやデンタルフロスなどの補助道具を併用するといい。この時、歯磨き粉は特に必要としない。

歯の健康は人生にも影響する
毎食後に磨く必要はなく、、就寝前などに1日1回で十分だ。磨き残しは20%くらいに抑えるつもりで、1本1本を丁寧に磨きたい。力加減が強すぎても弱すぎても具合が悪く、正しく磨けていれば、歯ブラシの毛は1年くらい乱れない。

ただし、体質や歯並びは個々に違い、磨き方には人それぞれクセがある。自分の歯に合った磨き方をするには、歯科医院で予防ケアを受け、適切な指導を受けることが不可欠だ。

歯科医院を探す場合、自宅や会社から近くて安いなどといった条件ではなく、「なるべく歯を抜かない治療をしてくれる」など、自分の目的に合うことを第1条件に探してほしい。予防ケアは、信頼できるかかりつけ医との二人三脚で続けていくことが大事だ。

歯磨きが、人生そのものに及ぼす影響は大きい。歯周病を予防したい、口臭をなくしたいなど、歯磨きの目的は人それぞれあるだろう。ただ、目先のトラブルにとらわれてばかりいると、将来を見据えることができなくなる。

歯周病が悪化すれば、やがて菌が抜ける。歯の周囲の神経は脳と直結するため、歯が少なくなる分だけ脳を刺激する機会を失い、認知症などのリスクを高めると言われている。また、歯周病菌が口の中の毛細血管に入って全身を巡り、動脈の壁にすみつくことで、血液がドロドロになり、動脈硬化を引き起こしやすくなる。それが脳梗塞や心筋梗塞の原因になることもある。

また、口の働きは、食べて健康を維持すること以外にも、言葉を話す、笑うなどといった、動物にはできない人間としてのアイデンティティーを支え、社会性を備える原動力ともなっている。

歯を健康に保つことは、健全な心と体を維持することにつながり、さらには有意義な人生にも結びついている。その意識を持つことが、毎日の歯磨きを見直すきっかけになればと思う。
(談話まとめ:内藤 綾子=医療ジャーナリスト)

[出典:日経ビジネス、2010/12/27号、相良 俊男=国際ビル歯科(東京都千代田区)院長]
[イラスト:市原すぐる]

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