【葛根蕩の使い方】

落語にどんな患者にも葛根湯(かっこんとう)を処方する「葛根湯医者」という話がある。

「先生、頭が痛くてたまりません」
「頭痛だな。葛根湯あげるから、飲ん でおきなさい」
「おまえさんは?」
「腹が痛いんで何とかしてください」
「腹痛だ。葛根湯を飲んでごらん」
「そちらの方は?」
「足が痛くって、痛くて」
「足痛か。葛根湯やるから、しっかり飲むんだよ」
「後ろの人はどこが悪いんだい?」
「あっしは目が悪いんで」
「眼病はいけないよ。葛根湯をお飲み。で、おまえさんは?」
「こいつの付き添いです」
「そりゃ、ご苦労なことだ。退屈だったら、葛根湯でも飲むかい」

葛根湯と言えば漢方の風邪薬として有名になってしまったが、昔は葛根湯医者と言えば薮医者の代名詞だった。しかし、この話には誤解がある。そもそも葛根湯は風邪薬ではない。漢方は「証の医学」と言われ、病名によって薬を決めているわけではないのだ。

「証」に合つた薬を選ぶ
証とは、病人にどのような治療を施すべき確証(症状)があるかという意味で、診断の根拠となる症候群を指す。つまり、様々な症状の組み合わせのパターンに従って、薬を決める。漢方医が名医か名医ではないかは、その証を見極める能力にかかっている。

落語の葛根湯医者も、やってきた患者たちに「葛根湯の証」があると判断して処方していたかもしれない。葛根湯の証であれば、適応症は風邪、リウマチ、神経痛、副鼻腔炎、結膜炎、外耳炎、中耳炎、化膿症、急性大腸炎、夜尿症、腰痛と用いる範囲は広い。

葛根湯は、葛根、麻黄、桂枝など、全部で7つの生薬からなる。このうち、葛根は葛の根の外皮を削り、乾かしたもの。成分には鎮痙薬の1つであるパパベリンが含まれていて、実際に腹痛に効果がある。麻黄の主成分はエフェドリンで、気管支拡張の作用があり、咳を止める効果を持つ。これらの生薬が力を合わせて、病気を治していく。

では、葛根湯の証とは何か。@中等度以上の体力がある人(実証と言う)で、A頭痛、悪寒、発熱などの症状があり、H汗が全く出ず、C首の後ろが凝っている場合である。要するに風邪を引いた時であるが、この4つが揃っていれば、葛根湯は抜群に効くという。

漢方の復権に多大な功績を残した藤平健博士の口癖も「風邪と気がついてから、半日以内にその時の状態にピタリと合った漢方薬を飲めば、だいたい8割までは20分以内に、遅くとも2時間以内に治る」だった。

風邪を引いたからといって、闇雲に葛根湯を飲んでも効かない。体力がある人で、熱が高く、体のあちらこちらの関節が痛み、咳が激しいような場合には麻黄湯の証である。体力のない人で、頭痛、悪寒、発熱があり、じわじわと汗ばむようなら桂枝湯を用いる。

[出典:日経ビジネス、2010/11/29号、堀田 宗路=医学ジャーナリスト]
[イラスト:ヨコイまこ]

「江戸に学ぶ健康」は今回で終了いたします。

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