【糖尿病のメカニズム】

肥満体形のHさん(45歳)が、会社の健康診断をきっかけに糖尿病と診断された。しかし、どうして自分の血糖値が上がり、それがなぜ体に悪いのかよく理解できず、治療をする気になれないと言って、私のクリニックに来院した。そこで私は、Hさんに糖尿病のメカニズムを説明した。

飽和気味の食生活を送っていると、どうしてもカロリーが過剰になる。余った糖分は腸から吸収されて、血液の流れに乗って肝臓に達する。肝臓は、余った糖分を貯蔵し、血糖が上がらないように働いている。だが、ある限度を超えると脂肪肝となり、それ以上糖分を肝臓に押し込むことができなくなる。すると、血液中に糖があふれ出す。

血液中の血糖が高くなると、血糖を血管の中から細胞の中に移動させ、血糖を下げる効果のあるインスリンが膵臓からたくさん分泌されるようになる。しかし、高インスリンの状態が続くと、人間の細胞はインスリンに慣れてしまい、いくら膵臓がインスリンをたくさん分泌しても、血糖を下げる効果が低下して、血糖が細胞の中に入っていかなくなってしまう。この作用はインスリン抵抗性と呼ばれている。

このメカニズムを分かりやすく例えてみよう。うるさく騒ぐ子供たち(血糖)がいるとする。母親(インスリン)は叱りつけて、子供たちをなだめようとする(血糖を下げようとする)。最初は言うことを聞いている子供たちだが、次第に母親の小言にも慣れて(インスリン抵抗性)、また騒ぎ出す(高血糖)。しまいには、父親から雷が落ちる(糖尿病性神経障害、網膜症、腎不全といった糖尿病の合併症が出る)というわけだ。

インスリン抵抗性が進むと、血管の中の糖は高くても、細胞の中に糖が入っていかないので、細胞内が飢餓に陥り、痩せてしまう。つまり、糖尿病で痩せていくのは、相当に悪化していることを意味する。

脂肪肝があれば要注意
読者も健康診断の結果を見返してみよう。脂肪肝があるようなら、肝臓が悲鳴を上げているサインである。また、メタポリックシンドローム(内臓脂肪症候群)の内臓肥満型の人に、インスリン抵抗性が強い傾向があるので要注意だ。糖尿病と診断されるはどではないものの、血糖値が正常値より高い状態である境界型耐糖能異常の段階では、動脈硬化が進行していることも分かっている。

インスリン抵抗性を改善するには、運動が最も効果的である。「楽しい」「心地よい」と感じる程度の、軽めで持続時間の長い全身運動がお勧めだ。薬剤では「アクトス(一般名:塩酸ピオグリ タゾン)」が有効である。

例え話で糖尿病のメカニズムを理解したHさんは、治療を受けることを決めた。私は1〜2カ月間の血糖値の良し悪しを反映するヘモグロビンエーワンシー(HbAIC)値で5.8〜6.5%を目標にするよう指導した。

[出典:日経ビジネス、2010/11/22号、江田 証=江田クリニック院長]

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