【進化する喘息治療と診断法】

40代になってから発作的に起きる咳に悩まされ、最近、「気管支喘息」と診断されたTさん(45歳)。仕事中に発作が出るのではないかと、不安を抱えている。

「喘息」と呼ばれることが一般的な「気管支喘息」は、アレルゲンとなる物質、気候などの外因や、ホルモンバランス、自律神経の失調などの内因によって、喘鳴(ぜんめい)や咳などの症状が引き起こされる。時に呼吸困難に陥り、命の危険にさらされることもある疾患だ。

2009年に改訂された『喘息予防・管理のガイドライン』(日本アレルギー学会)では、治療の最終目標は、患者さんが健康な人と変わらない生活を送れるようにすることとなっている。かつてはひと月に1〜2回の発作はやむを得ないとされていたが、今では適切な治療と管理で発作を抑えることが可能になってきた。Tさんも薬を服用し、生活習慣に配慮すれば、発作に苦しむことなく日常生活を送れるだろう。

喘息という病気の概念は、この20年ほどで大きく変化している。かつては気道の狭窄が、喘息症状の根源と捉えられ、気管支拡張剤の投与が治療の柱となっていた。それが1980年代半ばぐらいまで続いたが、その間の研究により、喘息症状の根源は、気道の炎症であることが分かってきた。

気道粘膜の炎症による気道壁のむくみや、気道を取り囲む平滑筋の収縮で気道が狭くなり、炎症により気道に分泌物が出て、空気の通りがさらに悪くなる。つまり、炎症が原因で気道が狭くなる(発作が起きる)とされているのだ。そのため基本治療として、気道を拡張させることより、炎症を抑えることを優先するように変わってきた。

また、最近の研究で、長期間にわたって発作を繰り返していると、気道粘膜下の平滑筋が肥厚し、さらに粘膜に新しい血管や分泌腺が過度に形成されるため、慢性的に気道が狭くなり、発作が起きやすくなるということも分かってきた。現時点では、この現象(リモデリング)を改善する治療法は確立しておらず、予防として発作をしっかり管理することが必須となっている。

新薬や呼気による診断装置も
気道粘膜の炎症を抑えるには、吸入ステロイド剤が有効である。吸入ステロイド剤は、経口ステロイド別に比べて全身への副作用が少なく、気道組織に直接作用するので即効性に優れている。しかし、我が国は欧米各国に比べ、吸入ステロイド剤の普及が遅れ気味であった。経口薬に比べて服薬するのに手間がかかるという点が、1つの妨げにもなっていたかと思われる。

しかし、近年、抗炎症作用のある薬と気管支拡張作用のある薬が配合された吸入ステロイド剤(配合薬)が発売され、患者さん自身も、薬の効果をより強く実感できるようになってきた。今年の初めには、さらに即効性と持続性に優れ、2種の薬が互いに相乗効果をもたらすという配合薬が発売された。薬を微粒子化して、より効果的に肺に分布される工夫が施されたデバイス(吸入のための装置)により、薬効がさらに高まっている。効果が実感できれば、患者さんの治療に対する意識も大 きく変わり、発作を適切に管理できる人も増えるだろう。その際に大切なのは、医師が患者さんの症状に合う薬を、最適量処方することだ。

そこで重要になるのが診断である。今までは、問診、血液や痰の検査などで診断して治療方針を決めており、専門医でないと診断は難しかった。最近、喘息患者の呼気中のNO(一酸化窒素)濃度が上昇することが分かってきた。簡易に呼気NOを測定する装置が開発され普及しつつある。この装置があれば、専門医でない内科医でも喘息の診断が容易になり、適確な治療も可能になっていくだろう。早い段階で診断がつけば早期に治療が始められ、重症化や慢性化を防げる。こういった新薬や 診断装置は、患者さんのQOL(生活の質)を高めることにつながるので、広く普及されることを願っている。
(談話まとめ:仲尾 匡代=医療ジャーナリスト)

[出典:日経ビジネス、2010/11/15号、一ノ瀬 正和=和歌山県立医科大学(和歌山市)内科学第三講座教授]
[イラスト:市原すくる]

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