【「秋パテ」を解消する】

Hさん(43歳)は最近体がだるく、体調が優れない。夏の間、冷房の利いた社内で長く仕事をしたり、冷たい飲み物を多く飲むなどしていたのが良くなかったのだろうか。

最近、体調を崩して来院する人が目立つ。今夏は記録的な孟暑だったが、秋になって急に涼しくなった。その環境変化に体が適応できていないのだ。私はこうした症状を「秋バテ」と呼んでいる。秋バテの主な原因は、自律神経系の変調である。

人間には、気温の変化に左右されずに、体温を一定に保つ仕組みが備わっている。暑い時は発汗や呼吸を盛んにするとともに、血管を広げて熱を放散し、体温の上昇を抑制する。逆に寒い時は、皮膚の血管を収縮させて体温の低下を防いでいる。そうした体の調整をしているのが、自律神経系だ。

ところが現代は、冷暖房の利いた環境で過ごすことが常態化しており、体温調節が必要な場面が少なくなりつつある。また、体熱の産生には筋肉が大きな役割を担っているが、歩かずに車を使い、階段の上り下りを避けてエスカレーターやエレベーターを使用するような生活は、筋力の低下を招き、熱を産生する働きが衰える原因を作っている。このような過度に文明に依存した生活が自律神経系の変調を招き、環境変化に適応する能力を奪っていると考えられる。

秋バテに陥る人は、自律神経系の働きが悪く低体温の上に、Hさんのように「夏の間、冷房に頼って過ごしていた」「冷たい飲み物をたくさん取った」という人が多い。体温調節機能の低下に加え、体を冷やす生活が原因となり体温を十分に上げることができず、体調不良につながっているのである。

ちなみに低体温の医学的な定義はないが、平熱が36度未満の場合は低体温として治療の対象になると私は考えている。

冷えを防ぎ、体を温める
一般的に男性は冷えを軽視しがちだ。アンケートの結果では冷えを自覚している男性は少なくないものの、女性と違って仕事に影響を及ぼしたり、もっと深刻な症状が生じたりするまで対策を講じようとしない。

しかし冷えは、細胞の諸活動に関わる酵素や遺伝子を修復する酵素の機能を低下させ、免疫活性も鈍化させ、活性酸素を無毒化する機能の低下などを引き起こす。その結果、頭痛や肩こり・腰痛などの体のトラブルから高血圧・糖尿病・脂質異常症といった生活習慣病、さらにはガンまで様々な病気の要因になり得る。そのため、たかが冷えと侮ってほしくはない。わずかな不調のうちに対策を取っておけば、大きなトラブルは避けられる。

秋バテによる体調不良では、体を冷やさずに温めることが体調を戻すためのポイントになる。薄着をせず、腹部が冷えていたら腹巻きをする。冷たい物を取るのを控える。シャワーだけの入浴で済ませずに、38〜40度のお湯を張った浴槽に10分以上つかるなどするといいだろう。

体を使い、筋肉の熱産生を高めることも重要だ。通勤時は駅のエスカレーターや会社のエレベーターを使わず階段を使用してできるだけ歩き、休日はウォーキングやエクササイズなどで体を動かすようにしたい。

こうしたことを、今より体温が0.3〜0.5度程度上がるまで、また、体温が36度未満の場合は36度以上になるまで続ければ、体調不良はかなり改善され、体力も持ち直すはずだ。これが第一段階の対処法になる。

次の段階としては、体に負荷をかけて積極的に自律神経系を鍛えていく。乾布摩擦を行ったり、入浴の際には温浴だけでなく、ぬるめのお湯や冷水をシャワーで浴びるなどするといい。厚着をしないことで呼吸数や心指数を上げて体温アップを図る方法もある。

いずれにしても、それぞれの体力のレベルに合わせて、無理のない範囲で行うことが大切だ。
(談話まとめ:繁宮 聴=医療ジャーナリスト)

[出典:日経ビジネス、2010/11/08号、川嶋 朗=東京女子医科大学付属 青山自然医療研究所クリニック(東京都港区)所長]
[イラスト:市原すぐる]

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