【現場の再生を阻むもの】

「業績が上がらないのも、会社が失速しているのも、要するに社員の無関心が原因というのですか。論理が飛躍していやしませんか」。衰退した隣町を復興させた立役者から話を聞いた工場長の彼は、「会社を立て直すキーワードは『無関心』かもしれない」と考えた。それを部下の副工場長に話したら、そんな意見が返ってきたのだった。

無論彼も、無関心だけが原因とは思っていない。しかし、工場に赴任してから3カ月、いろいろな人に会って話を聞き、無知や無関心の怖さを知った。「オレもおまえのことをまるで知らなかったと最近気づいたよ」と彼が告げると、副工場長は「職場や居酒屋での一杯で話し合えていると思っていました」と言った。「そういうことじゃないんだ」と彼は否定し、副工場長としての意見を聞かせてくれと頼んだ。

例えば、長期の単身赴任者は会社を離れていく傾向が強い。女性の総合職もいつの間にかいなくなる。退職を迫られたわけではないのだから、居心地が悪いということだろう。そうしたことを話し合ったことがあるのは、労働組合だけだ。労組に属している単身赴任者や女性社員が悩んでいるらしいことは知っていても、上司や幹部たちは動かない。「ウチの工場で上司と言えばオレやおまえだ。社員たちへの興味や関心がないから誰も動かない。会社の居心地なんて、本社の誰かが考えれ ばいい。辞めたければ勝手に辞めていけばいい。そう思っている。違うか?」と彼は再度、副工場長に問うた。

返ってきた副工場長の答えは明快だった。「単身赴任するか退社するかを決めるのは、社員個々の事情や考え方次第。我々が自己批判しても意味がないのではないですか」。その答えを聞いて、彼はつぶやいた。「人間がダメになったら、企業は終わりなんだよ」。

内部に向かない目
情報過多の時代だからだろうか、真に必要な情報は外部にあると信じている企画部員はインターネットばかり眺めている。その情報を真に受けた管理職は、会社が長年培ってきた強みを振り返ることなく、新しい何かに飛びつこうとする。そして、あっけなく頓挫する。業績が低迷している理由は、会社内に蓄積された情報やノウハウを吸い上げる仕組みがない点にあると彼は見ていた。動いているようで、てんでばらばらになった現場を再生させるには、社員たちの声や本音に耳を傾ける しかないと彼は思う。新しい芽も、その中に潜んでいるように思えるのだ。

「口にすれば立場が危うくなるから誰も言わない。せいぜい、無記名で投書するのが精いっぱい。しかも、その意見書はゴミのように捨てられていく。果たして出てくる意見はクズなのだろうか」。彼は、副工場長の冷めきった目を見てたじろいだ。人はこうして周囲から浮いていくのかと思った。

[出典:日経ビジネス、2010/10/11号、荒井 千暁=産業医]

このコラムについて
月1回、51歳の「彼」の視点を通じて、働き方や生き方の多様性を考える。メーカーの早期退職を1年間棚上げし、急逝した工場長Kの後任に就いた彼。問題が山稚する現場理解に努める中、高齢化で衰退した隣町の復興を牽引した人物が話した「無関心」の言葉に胸を突かれた。

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