【胃の病と間違えやすい膵炎】

上腹部の痛みと背中の痛みで受診したKさん(47歳)。胃潰瘍だと思っていたら、「慢性膵炎かもしれませんね」と言われた。慢性膵炎とはどんな病気なのだろうか。

膵臓は、胃の裏側のやや左よりにある臓器だ。食べ物を分解するための消化酵素を作り、膵液として十二指腸に分泌する機能と、インスリンなどの血糖値を調節するホルモンを血中に分泌する機能を持つ。

膵炎は、何らかの理由で膵臓から漏れ出た分解酵素の作用などにより、膵臓が炎症を起こす病気。急激に一過性の炎症が起きる急性膵炎と、炎症が慢性化して長期間にわたって膵臓の組織の破壊が進む慢性膵炎などがある。

実はどちらの膵炎も年々患者数が増えている。2007年の全国調査では、急性膵炎患者は約5万8000人、慢性膵炎患者は約4万7000人にも上る。

重症の急性膵炎では、膵臓やその周囲に出血や壊死が起き、多臓器が障害を受けたり、感染症を発症するために亡くなるケースもある。しかし、多くの症例では膵臓は腫れるものの、適切な治療を行えば比較的早く回復する。また、回復すれば、膵臓の形状も機能も、元通りに戻る。

一方、慢性膵炎は、膵臓の組織自体が破壊され変化してしまうため、形状も機能も元の状態には戻らない。また、急性膵炎を繰り返すことで慢性膵炎になることもあるので、より早期の発見が肝要だ。

慢性膵炎の主な症状は、上腹部の痛みや吐き気、嘔吐、背中の痛み、腹部の膨満感など。こうした症状は、腎結石や胆石のほか、胃炎や胃潰瘍などでも起こるため、間違われることもあるようだ。また、腹部症状を含む不定愁訴がFD(機能性胃腸症)とも似ており、FDと言われた人の中に慢性膵炎の人がいる可能性もある。

大量飲酒者は要注意
膵炎の発症メカニズムなどはまだ解明されていないことも多く、昨年までの診断基準では、かなり進んだ症状のケースしか慢性膵炎と診断できない問題点があった。しかし、2009年には診断基準が見直され、慢性膵炎の早期発見、早期治療が期待できる。

慢性膵炎の場合、症状の進行は3つの時期に分けられる。最初は、痛みなどが断続的に起こる時期。次に、膵臓の破壊が徐々に進んで自覚症状があまり出なくなる時期。その後は、組織の多くが破壊されることで、機能が極度に低下する時期になる。その頃になると、消化酵素の分泌の低下による消化吸収障害が起きたり、インスリンなど血糖値に関わるホルモン分泌が落ち、糖尿病を発症したりする。

慢性膵炎にはいくつかの原因があると考えられるが、一番大きな要因が毎日の大量の飲酒である。日本酒なら1日3合以上、ビール1.5リットル以上、ワイン720ミリリットル以上、ウイスキーのダブル4杯以上、焼酎2合以上を毎日飲むようなら要注意だ。

また、膵炎発症後の飲酒は、膵炎の再発の危険性を著しく高める。酒量を減らしても飲酒を継続した人の再発リスクは、禁酒した人の約2.7倍、酒量が同じか増えた人では約6.2倍にも上る。前述したように、急性膵炎を繰り返すことも慢性膵炎の原因なので、膵炎と診断されたり、疑いがあるとされたら、酒を控えてほしい。加えて、慢性膵炎の発症は、喫煙者で多いことも分かっている。

慢性膵炎の治療の柱は投薬だ。たんばく質分解酵素の作用を抑える薬や、胃酸の分泌を抑える薬、低下した消化酵素の分泌を補う消化酵素薬、鎮痛剤などを服用する。また、膵臓にできた膵石を除去する内視鏡処置や、膵臓の消化酵素液が通る膵管の狭窄を防ぐために、ステントと言われる細長いプラスチック製の管を内視鏡で挿入することもある。

慢性膵炎を防ぐには、飲酒や喫煙を控えて、規則正しい生活を送ることが大切だ。
(談話まとめ:武田 京子=医療ジャーナリスト)

[出典:日経ビジネス、2010/10/11号、下瀬川 徹=東北大学大学院(仙台市青葉区)医学系研究科消化器病態学分野教授]
[イラスト:市原すぐる]

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