【腰痛を治すショック療法】

1774(安永3)年春、江戸・両国橋の見世物小屋で、前代未聞の放屁男の芸を見た平賀源内は仰天した。何と男は「ブウブウ」と屁を放って、能の三番曳(そう)から祇園囃子、犬の遠吠えまで巧みに吹き分けた。さらに屁をしながらとんぼ返りをして、水車が水を撥ねるさまを活写した。生来人を驚かすことが好きな源内は「よくぞ屁をひった」とこの芸にいたく感動した。

源内が摩擦静電気発生機「エレキテル」の復元に成功したのは、それから2年後のこと。男の芸が源内の創造力をかき立てたのは間違いない。源内は『放屁論』の中で書いている。「火の原理も屁の原理も同じようなもの」「いっそエレキテルをヘレキテルと名を変え、自らも放屁男の弟子となろう」。

オランダから渡来してきたエレキテルは、ほとんど原形をとどめないほど壊れていた。電気の知識が全くない源内が、それを作り上げたのだから、発明のようなものだった。

エレキテルの箱についている取っ手をグルグルと回し、出ている針金を持っていると、人体から小さい火花が出る。なぜ火花が出るのか、源内にも分からなかったが、その不思議な光景を見ようと、連日見物人が押し寄せた。

実はエレキテルは医療用器具で、現代で言えば電気治療器や低周波治療器のようなものだった。源内もその目的で使おうとしたが、電気ショックを与えるほど強い電流は得られず、何の効果も発揮しなかった。ただ人を驚かせただけである。それでも、日本に科学の新しい扉を開いた意義は大きい。

「常識」の逆の発想
ショッキングな療法と言えば、最近ではマッケンジー体操だろう。ニュージーランドの理学療法士、ロビン・マッケンジー氏が考案した体操は、従来腰痛には厳禁とされてきたうつ伏せの姿勢を取ることで腰痛を治す。

腰が痛くて曲げられない人は、うつ伏せの姿勢をすることなど考えられないかもしれない。つい最近まで、医学の世界でもそう見られていた。ところが、最初は痛いかもしれないが、うつ伏せになると、逆に腰の緊張が取れてきて、腰痛が楽になっていく。マッケンジー氏は偶然このことを発見した。

要は、うつ伏せの姿勢は背骨の本来の湾曲を取り戻し、腰の負担を軽くするのだ。不思議なのは、それまでこの単純な理屈に誰も気がつかなかったことだ。「常識」の壁を打ち破ることほど難しいものはない。この効果は試してみるとよく分かる。

腰痛の人はまずうつ伏せになり、それができたら、次にその姿勢から腕立て伏せのようにさらに腰を反らせてみよう。これを数回繰り返すだけで、腰の痛みが取れてくる。私が見聞きした範囲では、たったこれだけのことで長年苦しんでいた腰痛から解放される人が何人もいた。ただし、マッケンジー体操はすべての腰痛に効くわけではない。日本にいち早くこの体操を紹介した静岡県裾野市の穴吹弘毅医師の報告によると、腰を後ろに反らすと痛む場合に効果がある。

「出典:日経ビジネス、2010/09/06、堀田 宗路=医学ジャーナリスト]
[イラスト:ヨコイまこ]

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