【突然起こる円形脱毛症】
ある日、後頭部に鈍い痛みを感じたKさん(49蔵)。指で触ると、ごっそり毛が抜けていることに気づき、皮膚科を受診。「円形脱毛症」と診断を受けた。
円形脱毛症は、その名の通り円形に脱毛が起きることの多い病気だ。年齢や性別を問わず発症する一般的な疾患だが、実際のところ、発症の原因や確実な治療法などについては、まだ解明されていない部分が多い。
円形脱毛症は、ある日何の前触れもなくできるケースがはとんど。中には前兆として、患部にチクチク、ズキズキといったかゆみや痛みを感じる人もいる。主な症状としては、直径1〜3cmの範囲にわたっての脱毛。脱毛する部分は1カ所だけのケースもあれば、頭髪全体が抜けてしまうケース、眉毛やまつ毛に至るまで全身すべての体毛が抜けてしまうケースもあり、その深刻度や重症度も様々だ。
一般的に、円形脱毛症の原因として考えられているのは、免疫異常(アレルギー)や遺伝的要因、そして精神的ストレスとされている。
免疫異常による脱毛は、リンパ球が毛根を攻撃することによって起こる。体内に何かトラブルがあり、集まってきたリンパ球が炎症を起こし、自身の毛根の細胞に攻撃を加えてしまうことにより、毛包や毛の幹細胞が損傷を受けて部分的に脱毛してしまう、というものだ。しかし、なぜ免疫異常が起きるのかはよく分かっていない。
一方、精神的ストレス説は、環境の変化や仕事の悩み、人間関係のトラブルなど何かしら精神的な抑圧を受けた場合に脱毛する、というもの。これも学術的な根拠には乏しく、因果関係ははっきりしていない。
だが、いずれの場合も体内の免疫バランスが崩れるという点で共通している。そのような状態で免疫が低下した体に表れる様々な症状の1つとして、脱毛してしまう疾患であることは確かである。
治療法は人それぞれ
これだという原因がはっきりしないために、予防法もなければ、確実な治療法がないのも事実だ。そこが円形脱毛症治療の難しい点でもある。
だが、悲観することもない。通常、円形脱毛症になった場合、まず皮膚科を受診するのが一般的だ。皮膚科では、免疫異常を抑えるためのステロイド剤や血流改善効果のあるフロジン液が処方される。症状が軽ければ、これらを患部に塗布することで治癒するケースも少なくない。
あるいは、ドライアイスやレーザーなどで頭皮を刺激して発毛を促すといった治療法もある。これらの方法以外にも、ステロイド注射や感作療法などが有効な場合もあるので、その人にとって相性の良い治療法を、担当医と相談していろいろと試すといいだろう。
治療期間については、大体2カ月から半年ほどかかるのが一般的だ。また、特に治療をしなくても「精神的なストレスから解放されたら、いつのまにか円形脱毛症も治っていた」という人もいる。先に「予防法はない」と述べたが、明らかに脱毛の原因だと思い当たる精神的ストレスが分かっているなら、それを回避することは予防法の1つと考えられる。
毛が一度抜けてしまうと、「二度と生えてこないのでは」と心配する人も多いだろう。うなじや生え際などにできた円形脱毛症は治りにくいこともある。しかし、はとんどは脱毛の進行が止まれば、数カ月後に軟らかい毛が生えてきて、その後また健康な硬い毛がよみがえってくるので、あまり心配しなくてもいい。
ただ、積極的に治療に臨んだ方が治癒率も高く、治療期間も短くて済むとも言われているので、症状が軽いうちに皮膚科を受診することをお勧めする。皮膚科で一通りの治療を施しても効果がないという場合には、自費診療で頭髪専門外来を受診するという選択肢もある。
(談話まとめ:新家 美佐子=医療ジャーナリスト)
「出典:日経ビジネス、2010/09/06、脇坂 長興=脇坂ナカツクリニック(大阪市北区)院長]
[イラスト:市原すぐる]
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