【イヤホンの大音量で難聴に】

通勤中や帰宅後など、習慣的にイヤホンで音楽を聞いているSさん(29裁)。ある時、音が聞こえづらくなり、耳鼻科を受診すると、大音量で音楽を聞かないよう注意された。

難聴は大きく分けて、外耳・中耳性の「伝音難聴」と、内耳や神経性の「感音難聴」、そして両者が混在する「混合性難聴」の3種類がある。

伝音難聴は、音が伝わっていく過程(伝音機構)に何らかの障害が生じたために起こる難聴である。原因となるのは、慢性中耳炎、耳硬化症、鼓膜裂傷、耳管狭窄症、耳の腫瘍などの病気が挙げられる。これらは、音の感覚機構そのものに障害があるわけではないこと、診断技術が進歩していることなどにより治るケースが増えている。

感音難聴は、音の振動が内耳の感覚細胞を刺激して、聴神経から大脳で認識される過程、つまり内耳、神経、脳に問題が生じた難聴である。この場合は、音の感覚機構そのものに起因して いるので治りにくい。原因となる病気には、内耳炎、老人性難聴、メニエール病、突発性難聴、騒音性難聴、聴神経腫瘍などがある。

例えば騒音性難聴では、Sさんのように長期にわたって慢性的に音を聞く習慣があると、かかるリスクが高くなる。音の大きさにもよるが、大音量で半年から1年、2年と習慣的に聞いている うちに難聴が進んでいく。

長時間、大音量聞くのは避ける
趣味で音楽を聞くくらいなら音はれほど大きくなく、イヤホンで聞く場合も音量を下げて聞けばさほど心配はない。しかし、大音量で毎日2〜3時間も聞いていては危険がある。音響メーカーの製品仕様書にも注意書きがあるはずなので守ってほしい。

特に、地下鉄内では電車の騒音が大きいために、イヤホンの音量を上げがちになる。知らないうちに耳にダメージを与えていることもあるので、思い当たる人は聴力検査を定期的に受ける といいだろう。

慢性的な巨大音を聞くことで起こる騒音性の難聴と、1回の巨大音で起こる音響性外傷は異なるものである。コンサートなど巨大音のする場所で耳鳴りがしたら、直ちにその場を離れてほし い。翌日にも違和感が続いていたら、受診するのが賢明だ。なお、鉄工所など常に騒音環境にある職場では、労働衛生上の対策や半年に1度の定期検診が義務づけられている。

音の聞こえ方は人によって差があるように、感音機構が障害を受けた場合の症状も千差万別で、聴力の数値だけでは判断しにくい。比較的軽症の場合は、音と雑音との聞き分けができない、言葉が聞き取れない、大勢の中での会話の中身が分からないなどの症状がある。同じ音でも女性の声など高い音域が聞き取れなかったり、男性の声など低い音域が聞き取れなかったり、母音は聞こえるが子音が聞こえにくかったり、同じ人の言葉でも部分的に聞こえなかったりすることなどもある。このため日常生活に差し支えたり、人間関係で誤解を受けたりといったトラブルが生じることもある。

最近最も多いのは、低音障害型の感音難聴。飛行機に乗った時やエレベーターで高層階に移った時のような耳閉感が続く。唾をのんでも治らない時は要注意だ。

ストレス性の難聴も増えている。常に多忙な人やノルマを抱えている人、几帳面、完璧主義といった性格の人などがなりやすい傾向にある。十分な睡眠時間を取る、多忙でもある程度の休 憩時間は確保する、定期的に運動するといった予防策が有効だ。

難聴すべてに言えるのは、異変を感じたらなるべく早く耳鼻科へ行くことだ。2〜3週間様子を見てからでは遅い。治療が早ければ治ることも多いが、発症から時間が経つと治りにくくなる。特に感音難聴では音の感覚細胞が損傷すると治療が難しくなる。イヤホンで大音量の音を習慣的に聞くのは避けた方がよい。
(談話まとめ:杉元 順子=医療ジャーナリスト)

[出典:日経ビジネス、2010/08/30号、奥野 妙子=三井記念病院(東京都千代日区)耳鼻咽喉科部長]
[イラスト:市原すぐる]

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