【新しい価値観を創る喜び】

身体的障害などのハンディがあろうとなかろうと、人が自然に交わり合う社会を実現しよう。そう考えて、「ネクスタイド・エヴオリューション(新しい価値観や潮流を創出するという意味)」というプロジェクトを2002年に立ち上げました。この活動を通じ、新しい価値観を広めていくことが、私の活力の源になっています。

プロジェクトでは、ファッションやデザインの力でハンディを特別視する「意識のバリア」を壊すことを目指しています。そのために、世界各国のクリエーターと連携し、機能性とファッション性を兼ね備えた様々なプロダクトを生み出しています。

例えば、丸井やスポーツメーカーとともに開発したスニーカー。障害者用の靴と言えば、甲の部分が面ファスナーになったベルクロ式が一般的です。着脱はしやすいものの、デザイン的に はいま一つのものが多いんですね。それを、シューレース(靴紐)を残したまま、両側にファスナーをつけることで、踵の部分が大きく開いて簡単に着脱できる、デザイン性の高いスニーカーに改良しました。

また、障害者向けの靴は限られた店や売り場でしか購入できませんが、このスニーカーはファッション感度の高い若者が集まるショップで販売しています。顧客はこのスニーカーを「履き たい」という視点で選び、商品のタグを見て初めて、ハンディのある人にも履きやすいことに気づくのです。ハンディのある人にとっても、一般に売られれば買いやすくなる。格好良いスニーカーを履いて街へ出る、人に会うといった行動は、心身の健康にもいい影響を及ぼすはずです。

息子に教えられた幸福感
私がこのプロジェクトを始めたのは、次男が重度の脳性麻痺で生まれたことが契機でした。息子に障害があり、一生歩けないだろうと医師から告げられた時は、不幸のどん底に落とされた気がしました。しかし、それは間違いでした。ハンディがある次男を育てる過程で、それまで当たり前だと思っていたことが当たり前ではなく、小さなことにも大きな喜びや幸せを見いだせることに気づいたのです。ハンディは障害ではなく、可能性なのです。

丸井に勤めていた頃は仕事に明け暮れ、自分の健康を気にかけたり、家族との時間を持ったりすることはなかなかできませんでした。現在は、毎月1週間は家族の暮らすニュージーランドで ゆっくり過ごすライフスタイルを送っています。「絶対に歩けるようになる」という私の信念が通じたのか、次男は今ではあのシューレースのスニーカーを履いて、元気に歩いています。

安定収入があり、身体的ハンディもない。多くの人はそんな状態が幸せだと考えるかもしれません。けれど、本当の健康や幸せはもっと精神的なものに負うところが大きい気がします。
(談話まとめ:田村 知子=フリーランスエディター)

[出典:日経ビジネス、2010/08/23号、須藤 シンジ=フジヤマストア、ネクスタイド・エヴォリューション代表]
[写真:皆木 優子]

須藤シンジ(すどう・しんじ)氏
1963年生まれ。大学卒業後、丸井に15年間勤務。バイヤー、宣伝、店次長などを経て、2000年マーケティングのコンサルティングなどを行うフジヤマストア、2002年ネクスタイド・工ヴォリューション設立。

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