【複数の薬に疑問を持ったら】

慢性疾患で通院加療中のAさん(55歳)。処方薬が10種類以上になり、このまま全部飲み続けてよいものか、不安になってきた。医師に尋ねるのも気が引けている。

以前、私は患者さんの薬の理解度を調べる調査を行ったことがある。薬局で薬を受け取ったばかりの患者さんに、袋の中から処方薬を1つずつ取り出して、「これは何のための薬ですか」と尋ねてみた。すると、処方薬の数が増えるほど正解率は落ちていき、6剤以上を処方された患者さんでは、正解者が10%にまで低下した。

先日、他院から18種類もの薬を処方されている関節リウマチの患者さんから相談を受けた。患者さんが何か症状を訴えると、医師はその訴えの数に応じて次々と薬を加える傾向がある。し かし、薬の数が増えれば、相互作用で効果がなくなったり、逆に効き目が強すぎて副作用を生じることもある。飲み間違いや飲み忘れも多くなる。

一般的な目安では、10種類以上の薬が処方された時は、「ちょっと待てよ」と思った方がよい。持病の数にもよるし、何とかしたいという医師の気持ちも分からないではないが、訴えや症状のすべてが薬で解決するわけではない。薬の数が多い時は、それぞれの薬の重要度に順位づけをしてもらい、場合によっては薬以外の方法で解決できる選択肢を教えてもらってもいいだろう。

医師・患者問のコミュニケーションにも工夫が必要だ。むやみに副作用を怖がって、何かあれば「薬のせい」にしてしまう患者も困るし、逆に副作用に全く無頓着な医師も困る。用量や飲み方を少し変えるだけで解決できる副作用は多いのだから、医師の側からももっと積極的に患者さんに注意事項を説明する工夫が必要だろう。

医師に積樺的に質問を
米国では1970年代に「Get the Answer運動」「Give the Answer運動」が始まった。Get the Answer運動では、次の5つの質問をすることが推奨された。@処方された薬の名前と期待される効果、A使用方法と使用期間、H服用中に避けるべき食べ物やほかの薬、控えるべき作業・スポーツ、C予想される副作用と、それが起きた場合の対処法、Dその薬に関する情報を記した資料の有無。

日本でも、これらの多くは薬を受け取る調剤薬局の薬剤師に尋ねれば答えてもらえる。だが、「なぜその薬が処方されたのか」と「いつまで続ける必要があるか」は診察をし、処方を書いた医師でなければ分からない。日本では、医師に質問することをためらう患者さんがまだ多いが、患者に説明をするのは医師の仕事の基本中の基本なのだから、遠慮することはない。

よく「医師・患者間には情報の不均衡がある」と言われる。一般的には医師は医学的な基礎知識を十分に備えており、患者にはそれが少ないことを指しての表現だが、これは極めて一面 的な見方である。痛みやつらさ、薬の効き目や副作用など、患者でなければ理解できないことがあり、両者が対等な立場で情報を交換しなければ、治療は成功しないものだ。

日本の医療をもっと患者志向性の高いものに変えていくためには、まだまだ改めなければならないことが多く、「患者力」ももっと強めていかなければならない。そんな手助けになるサイトを最後に紹介しておく。

独立行政法人医薬品医療機器総合機構の「医薬品医療機器情報提供ホームページ(http://www.nfo.pmda.go.jp/)」、NPO法人(特定非営利活動法人)医薬ビジランスセンターの「薬のチェック(h仕p:www.npojip.org/)」、医薬品・治療研究会の「正しい治療と薬 の情報(http://www.tip.gr.jp/)」などで、信頼できる医薬品の情報が得られる。また、月刊誌「正しい治療と薬の情報」には、詳細に書かれた欧米の薬の説明書に倣って、日本の患者向けに作成した「患者用くすりの説明書」が毎月掲載されている。
(談話まとめ:田野井 真緒=医学ジャーナリスト)

[出典:日経ビジネス、2010/08/23号、別府 宏圀=新横浜ソーワクリニック(横浜市港北区)院長]
[イラスト:市原すぐる]

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